不動産の売買では、不動産会社に仲介を依頼するのが一般的です。
しかし、不動産の売却を検討する際に「個人同士で売買できるのかな?」と考えることもあるでしょう。
この記事を読むと、不動産の売却における以下の疑問が解消されます。
- 不動産は個人売買できるの?
- 個人売買のメリットとデメリットは?
- 個人売買はどんな流れで進めるの?
- わからないことがある場合、どんな人に頼れば良い?
さらに、記事を読んで「個人売買はやめておこう…」と感じた人に向けて、不動産会社に売買の仲介を依頼するときのポイントも解説します。
不動産の個人売買について、理解を深めていきましょう。
不動産は個人売買できるのか
不動産は、個人同士で売買することができます。
個人売買には、宅地建物取引士などの資格も不要です。
不動産の個人売買を検討する際には、はじめにメリットとデメリットを把握しましょう。
以下に詳しく解説していきます。
不動産を個人売買するメリット
不動産の個人売買には、仲介手数料がかからないというメリットがあります。
仲介手数料とは、不動産を売却できた際に、不動産会社に支払うお礼金のことです。
一般的に、以下の式で計算された額を支払います。
不動産の売却金額 × 3% + 6万円 + 消費税 = 仲介手数料
たとえば不動産の売却金額が3,000万円の場合、仲介手数料は105.6万円になります。
個人売買では不動産会社を利用しないため、仲介手数料を支払う必要がなく、不動産の売却にかかる費用を抑えられるのです。
また不動産の個人売買におけるメリットとして、自由度が高いことも挙げられます。
買い手の探し方や売買条件などにおいて、不動産会社の意見やルールに縛られることがありません。
個人売買では、自身のペースで自由に売却を進められるのです。
不動産を個人売買するデメリット
不動産を個人売買するデメリットは、手間がかかることです。
個人売買では、不動産会社が対応してくれる以下のようなことを、すべて自身でおこなう必要があります。
- 不動産の広告を出す
- 不動産に対する問い合わせに対応する
- 内見を希望する人と日程調整をおこなう
- 売買条件について、買い手と交渉する
- 売買契約書などの書類を作成する
また個人売買における不動産の広告では、スーモなどの不動産情報サイトや、レインズが使えません。
レインズとは、不動産会社同士が情報を共有するためのネットワークのことです。
レインズに不動産の情報を載せることで、より多くの人に検討してもらえます。
不動産情報サイトやレインズが使えないと、不動産を探している人の目に触れる機会が減るため、売却スピードが遅くなる可能性が高いです。
さらに、個人売買におけるデメリットのひとつとして、リスクが大きいことも挙げられます。
不動産の売却には、不動産の知識だけでなく、法律や税金などの幅広い知識が必要です。
個人同士で慣れない不動産取引をおこなうと、契約書や手続きなどにミスが起きやすくなります。
トラブルに発展した場合、自身で適切に対処しなければなりません。
不動産を個人売買するときの流れ
不動産を個人売買するときの流れは、以下のとおりです。
- 不動産の状態を把握する
- 不動産の売却価格を決める
- 不動産を売り出す
- 買い手と売買条件をすり合わせる
- 買い手と売買契約を結ぶ
- 買い手に不動産を引き渡す
- 確定申告をおこなう
各ステップの詳細や必要書類について、詳しく見ていきましょう。
不動産の状態を把握する
個人売買は、不動産の状態を把握することから始めましょう。
不動産の状態を把握していないと、買い手に正しい説明ができず、売却後にトラブルとなる可能性があるためです。
まずは、不動産を購入したときの契約書や図面から、不動産の基本情報(土地建物の面積・築年数など)を確認します。
次に確認すべき項目は、以下のとおりです。
- 構造や設備がどのくらい劣化しているか
- 壊れている部分はないか
- 土地の境界線が明確か
- 名義人が自身になっているか
建物の状態については「ホームインスペクション(住宅診断)」で調べられます。
ホームインスペクションとは、住宅診断士に建物の劣化や欠陥について調べてもらい、アドバイスをもらうことです。
普段は目にしないような、建物内部の状態までわかります。
また、土地の境界線を明確にしておくことも大切です。
境界線によって敷地面積が変わるため、売却価格にも大きく影響します。
土地の境界線があいまいになっていたり、測量図が古かったりする場合は、土地家屋調査士に依頼して正確な境界線を測ってもらいましょう。
土地面積の測量図は「地積測量図」といい、法務局で取得できます。
不動産の名義人は、法務局で取得できる「登記簿謄本(登記事項証明書)」で確認しておいてください。
名義人が前の所有者のままになっているケースがあるため、注意が必要です。
不動産の売却価格を決める
不動産の状態を把握したら、売却価格を決めます。
売却価格は、買い手の付きやすさを左右する大きなポイントです。
相場よりも高すぎる売却価格を設定すると、ほかの不動産に買い手が流れてしまいます。
反対に、相場よりも安すぎる売却価格にしてしまうと「なにか問題がある不動産なのでは?」と買い手に不安を抱かせる可能性があります。
不動産の売却価格は、相場に合わせることが大切です。
不動産の相場は、以下のサイトで調べられます。
- 一括査定サイト
- 土地総合情報システム
- レインズマーケットインフォメーション
不動産の一括査定サイトを利用すると、複数の不動産会社に査定を依頼することが可能です。
査定額は相場を基に計算されることが多いため、売却価格の設定において参考になります。
ただ、査定依頼の際に入力する電話番号やメールアドレスに、営業の連絡が来ることがあります。
土地総合情報システムは、国土交通省が運営するサイトです。
実際に取引された不動産の価格を調べられます。
条件が似ている不動産の取引価格から、相場を把握できます。
レインズマーケットインフォメーションは、国土交通大臣が指定する不動産流通機構が運営するサイトです。
土地総合情報システムと同様に、過去の取引価格を調べられます。
不動産を売り出す
売却価格を決めたら、不動産を売り出します。
個人売買専門のサイトに、不動産の広告を出すのが一般的です。
具体的なサイトとしては「e-物件情報」や「不動産直売所」が挙げられます。
サイトによって、手数料やサポート内容が異なるため、複数のサイトを比較しましょう。
不動産の知識を持ったエージェントから、サポートを受けられるサイトもあります。
広告を出す際のポイントは、以下のとおりです。
- できるだけ多くの写真を載せる(外観・各部屋・設備など)
- 明るくキレイに撮れた写真を載せる
- 不動産や周辺環境のメリット(グレードの高い設備・利便性の高さなど)をアピールする
サイトを見た人に興味を持ってもらえるような広告を出すことが大切です。
不動産に対する問い合わせや、内見の希望が来たら、丁寧に対応しましょう。
買い手と売買条件をすり合わせる
不動産の購入希望者(買い手)が現れたら、売買条件をすり合わせます。
売却価格のほかにも、引き渡しの時期、契約内容などについて取り決める必要があります。
買い手は基本的に、不動産を安く購入したいため、値引き交渉をしてくる可能性が高いです。
設定している売却価格の根拠を示して、双方が納得できるようにまとめましょう。
値引きを見越して、売却価格を少しだけ高く設定しておく人も少なくありません。
また買い手と取り決めた事項は、売買契約書に記載します。
そのため、どんなに小さなことでも書き留めておいてください。
買い手と売買契約を結ぶ
不動産の売買条件がまとまったら、買い手と売買契約を結びます。
売買契約には、契約書が必要です。
契約書を作る際には、トラブルを防ぐために、以下のポイントを押さえましょう。
- 不動産に適した契約書のひな形を使用する
- 売買条件は小さなことでもすべて記載する
- 収入印紙を貼り付けて消印する
契約書のひな形は、インターネットで調べると出てきます。
土地と建物を売買する場合は「不動産売買契約書」、土地のみを売買する場合は「土地売買契約書」など、種類があるため注意してください。
買い手と取り決めた売買条件は、小さなことでもすべて契約書に記載します。
「言った言わない」で揉めないようにするためです。
契約書には、郵便局などで購入した収入印紙を貼り付けます。
消印も忘れずにおこないましょう。
また、売買契約を結ぶ際には、以下のような書類が必要です。
書類 | 取得方法 |
登記簿謄本(登記事項証明書) | 法務局の窓口で取得する |
測量図 | |
住民票 | 市役所・区役所の窓口で取得する |
印鑑証明書 | |
固定資産税評価額証明書 | |
公図 | 自身が所有している |
身分証明書 | |
登記済権利証(登記識別情報) | |
建築確認済証 | |
購入時の売買契約書・重要事項説明書 | |
納税通知書(固定資産税・都市計画税) | |
耐震診断・リフォームに関する書類 |
契約書には実印を押すため、あわせて用意しておきましょう。
買い手に不動産を引き渡す
売買契約を結んだら、買い手と取り決めた日に不動産を引き渡します。
引き渡し時におこなうことは、主に以下のとおりです。
- 買い手から代金を受け取る
- 所有権移転登記をおこなう
- 住宅ローンを完済する
- 抵当権抹消登記をおこなう
- 不動産の鍵を買い手に引き渡す
所有権移転登記とは、不動産の所有者を買い手に変更する手続きのことです。
司法書士に代行してもらうか、法務局に直接申請します。
所有権移転登記にかかる登録免許税などの費用は、買い手が負担することが一般的です。
住宅ローンの完済と抵当権抹消登記は、住宅ローンが残っている場合にのみ必要です。
抵当権抹消登記にかかる費用は、一般的に売り手が負担します。
確定申告をおこなう
不動産を売却した翌年には、2/16〜3/15の間に確定申告をおこないます。
譲渡所得税を納めるためです。
譲渡所得税とは、不動産を売却した際の利益にかかる税金のことです。
不動産の売却金額から、以下の項目をマイナスし、一定の税率をかけて計算します。
- 不動産を購入した際にかかった費用
- 不動産を売却した際にかかった費用
- 適用される控除の額
譲渡所得税の税率は、不動産の所有年数によって異なります。
所得税 | 住民税 | 復興特別所得税 | 合計 | |
長期譲渡所得 | 15% | 5% | 0.315%(15%×2.1%) | 20.315% |
短期譲渡所得 | 30% | 9% | 0.63%(30%×2.1%) | 39.63% |
※ 国税庁、短期譲渡所得の税額の計算
※ マンションを売却したら住民税が上がる?税金の計算方法と軽減する方法を解説
※ 2037年までは復興特別所得税として、各年分の基準所得税額の2.1%を所得税と合わせて申告し、納付することになります。
また不動産の売却時に使える主な控除は、以下のとおりです。
「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」
「特定の居住用財産の買換えの特例」
控除の適用条件は細かく設定されているため、国税庁のホームページで確認しておきましょう。
確定申告では、税務署に申告書や必要書類を提出します。
「e-Tax(イータックス)」というシステムを利用すれば、オンラインでの申告も可能です。
不動産の個人売買で頼れる専門家
不動産の個人売買では、ピンポイントで専門家を利用することもできます。
それぞれの専門家に依頼できる主な業務は、以下のとおりです。
専門家 | 依頼できる業務 |
司法書士 | 登記手続き・売買契約書の作成 |
行政書士 | 売買契約書の作成 |
弁護士 | トラブルの解決 |
税理士 | 税金の相談 |
不動産鑑定士 | 不動産の価値の鑑定 |
土地家屋調査士 | 土地の境界線の測量 |
住宅診断士 | ホームインスペクション |
不動産の売却代金で住宅ローンを返済したり、買い手が住宅ローンを利用したりする場合は、基本的に登記手続きを司法書士に依頼します。
金融機関から、司法書士への依頼を義務付けられるためです。
専門家に依頼する際には費用がかかるため、見積もりを比べたうえで依頼先を選びましょう。
不動産会社に売買の仲介を依頼するときのポイント
個人売買について詳しく知ることで「個人売買ではなく不動産会社に頼ろうかな…」と考える人も少なくないでしょう。
不動産会社に売買の仲介を依頼するときのポイントは、複数社を比べることです。
はじめに、複数の不動産会社に売却の相談と査定を依頼します。
不動産会社を比べる際には、以下の4つを重要視しましょう。
- 査定結果に透明性がある
- 不動産売買の実績がある
- 自身に必要なサービス(瑕疵保証・建物調査など)を提供してくれる
- 担当者との相性が良く、信頼できる
査定結果は、自身で調べた相場を基にして、良し悪しを判断してください。
査定額の高さではなく「納得できる根拠を示してくれるか否か」が重要です。
また一戸建てやマンションなど、不動産の種類によって売却のノウハウが異なります。
売却したい不動産の種類を得意とする不動産会社を選んでください。
不動産会社の中には、仲介手数料を割引してくれるところもあります。
ただ、仲介手数料の安さだけで不動産会社を選ぶことはおすすめしません。
必要なサービスを受けられなかったり、売却活動に力を入れてもらえなかったりする可能性があるためです。
安全かつスムーズに不動産を売却するためには、仲介手数料は必要な費用だと考えましょう。
まとめ
不動産の個人売買におけるメリットとデメリットは、以下のとおりです。
メリット | デメリット |
・仲介手数料がかからない・買い手の探し方や売買条件の自由度が高い | ・手間がかかる・広告方法が限られる・リスクが大きい |
不動産の売買には幅広い知識が必要になります。
個人売買の流れや必要書類について、あらかじめ把握しておくことが大切です。
個人売買で、契約書作成や登記手続きなどの専門性が高いステップのみ、専門家に依頼するという方法もあります。
また不動産会社に売買の仲介を依頼する場合、売却活動の大部分を任せることが可能です。
プロの視点で売却を進めてくれたり、不動産の広告を出せる範囲が広くなったりと、多くのメリットがあります。
個人売買の手間やリスクと、仲介手数料の負担を天秤にかけて、自身に合った売却方法を選びましょう。