不動産の売却を決めたら、まず売却時に必要な書類を準備しましょう。不動産会社に査定依頼する際にも、ある程度書類が必要になります。
もし売却に必要な書類が手元にない場合、何らかの手だてが必要になることがあります。まずはチェックリストで必要書類があるかどうか確認しましょう。
かならずしも売却時に用意できなくても問題ない書類もありますが、なるべく多く揃えておくことで売却をスムーズに進めることができます。
この記事では、不動産売却時に必要な書類とその入手先を、確定申告も見据えて紹介します。これから不動産売却を予定している方は、ぜひ参考にしてください。
不動産売却時に必要な書類とは
不動産売却時には、権利証や印鑑証明などのほかにも用意しておくべき必要書類がありますが、一戸建てと土地、マンションで準備する書類も多少異なります。まず手元にあるか確認し、入手先も紹介しますので必要に応じて準備しておきましょう。※1
不動産売却時の必要書類チェックリスト
書類 | 入手先 | 一戸建て | 土地 | マンション |
登記識別情報または登記済権利証(権利証) | 手元に保管 | 〇 | 〇 | 〇 |
本人確認書類 | 手元に保管 | 〇 | 〇 | 〇 |
印鑑登録証明書(印鑑証明書)・実印 | 役所などの窓口(証明書自動交付機・コンビニエンスストア) | 〇 | 〇 | 〇 |
住民票(住所変更登記する場合等) | 同上 | 〇 | 〇 | 〇 |
固定資産評価証明書 | 役所の窓口(東京23区は都税事務所) | 〇 | 〇 | 〇 |
固定資産税都市計画税納税通知書 | 手元に保管 | 〇 | 〇 | 〇 |
建築確認済証・検査済証 | 手元に保管 | 〇 | ||
境界確認書・土地測量図 | 手元に保管 | 〇 | 〇 | |
建物平面図・間取図・工事設計図書 | 手元に保管 | 〇 | 〇 | |
購入時のパンフレット | 手元に保管 | 〇 | ||
管理規約・使用細則 | 手元に保管(管理室に保管・閲覧可能) | 〇 | ||
設備の取扱説明書・保証書 | 手元に保管 | 〇 | 〇 | |
抵当権抹消書類 | 金融機関より入手 | 〇 | 〇 | 〇 |
確定申告する場合 | ||||
確定申告書 | 国税庁のホームページ税務署・役所の窓口 | 〇 | 〇 | 〇 |
購入時の売買契約書(コピー) | 手元に保管 | 〇 | 〇 | 〇 |
売却時の売買契約書(コピー) | 手元に保管 | 〇 | 〇 | 〇 |
建物請負契約書(コピー) | 手元に保管 | 〇 | ||
仲介手数料・印紙代などの領収書 | 手元に保管 | 〇 | 〇 | 〇 |
登記識別情報・登記済権利証(権利証)
一般的に権利証とも呼ばれますが、不動産登記法の改正により2005年以降は「登記識別情報」となり、オンライン申請に対応できるようになりました。※2
従来の権利証とは見た目も異なり、アラビア数字やその他の符号の12桁の組み合わせが記載されています。第三者に盗み見られないようにシールが貼られており、剥がさないで保管します。もちろん従来の権利証も有効です。※3
万が一権利証や登記識別情報を紛失した場合は、司法書士などの資格者に本人確認をしてもらう必要があります。
権利証を無くしたからといってただちに所有権を失うわけではありませんが、本人確認のために司法書士と面談する必要があり、「本人確認情報」を作成してもらうために費用がかかります。
本人確認書類
本人確認書類は、媒介契約時には不動産会社に提示し、売買契約時は買主に、所有権移転登記を依頼するときは司法書士へ明示します。
一般的には運転免許証やマイナンバーカード、パスポートなど顔写真があるものを提示します。
もし所有権移転登記時にこれらがない場合は健康保険証などを利用しますが、通常2種類以上が必要になります。実際には司法書士や不動産会社の担当者に確認しましょう。
印鑑登録証明書(印鑑証明書)・実印
売買契約締結時には契約書に実印を押すことになるため、印鑑証明書が必要になります。また所有権移転登記を司法書士へ依頼するときは、司法書士へ登記を委任するため委任状に実印を押し、印鑑証明書を渡します。
印鑑証明書の発行日から3カ月や6ヶ月以内に取得したものが必要です。タイミングを考えて入手しましょう。
住民票
登記上の住所と現住所が異なる場合、所有権移転登記前に住所変更登記が必要です。通常所有権移転登記を依頼する司法書士へ依頼することになり、その際に住民票が必要になります。
引越しが1回であれば、前住所が記載されている住民票で足ります。しかし複数回引越しをしている場合は、住所の履歴が分かるように戸籍の附票を準備する必要があります。
固定資産評価証明書
所有権移転登記をする際に、固定資産評価証明書が必要になります。所有者であれば役所で取得できますが、第三者である不動産会社が取得する場合は、所有者の委任状が必要になります。
固定資産税都市計画税納税通知書
固定資産税と都市計画税は、1月1日の所有者が納税義務者です。売買により所有権が移転しても納税義務者が年度途中で切り替わることはありません。したがって1月1日から引渡し日の前日までを売主、引渡し日から12月31日までを買主の負担として引渡し日に精算するのが一般的です。※4
通常は固定資産税等の精算書は不動産会社が作成しますが、引渡し時にその証拠として売主は固定資産税都市計画税納税通知書を買主に提示します。
建築確認済証・検査済証
一戸建ての場合は、購入時に建築確認済証・検査済証を受け取っているはずです。引渡し時に原本を買主へ引き継ぎますが、万が一紛失している場合は、管轄する役所へ行き「建築計画概要書」や「「建築確認台帳記載事項証明書」を発行してもらいます。
これらは、当時建築確認済証や検査済証を発行している証拠になります。難しい場合は、不動産会社の担当者へ相談しましょう。
もし住宅性能評価書や地盤調査報告書、アスベスト使用調査報告書などがあれば、同様に引渡し時に買主へ渡すようにします。
境界確認書・土地測量図
土地や一戸建てを売却する場合、通常売主は買主へ境界を明示する必要があります。法律的には、境界明示は義務ではありません。しかし売買契約書で境界の明示について定めているケースが多く、境界が見つからない場合は、通常境界確定測量を行うことになります。
隣地所有者が多い場合は時間がかかることがあるため、なるべく早く土地家屋調査士に相談するようにしましょう。
隣地所有者が応じない場合は、不動産会社に相談して、境界について非明示にすることは可能です。
建物平面図・間取り図・建築設計図書
不動産の販売活動をする際、通常不動産会社が紹介用の図面を作成します。間取り図はその際に使用します。もし紛失していて、ない場合は不動産会社が作成してくれますが、媒介契約締結時に用意できるとスムーズ売却活動を進めることができます。
購入時のパンフレット
必ずしも必須ではありませんが、マンションの場合で購入時のパンフレットなどがある場合は、引渡し時に買主へ渡すようにしましょう。
管理規約・使用細則
マンションの場合は、管理規約や使用細則を買主へ引き継ぎます。通常引渡し時に買主へ渡しますが、売買契約書や重要事項説明書へ一部内容を転記するため、売買契約前に不動産会社へ貸し出すことがあります。
もし紛失していてない場合は、管理会社に相談しましょう。管理人室などで保管していることが多く、購入できるケースもあります。
設備の取扱説明書・保証書
エアコンや給湯器など、不動産に付帯する設備の取扱説明書や保証書があれば、引渡し時に買主へ引き継ぎましょう。
抵当権抹消書類
抵当権が設定されている場合は、所有権移転前に抹消する必要があります。金融機関へ依頼しておき、決済時に司法書士へ渡して抵当権抹消登記をしてもらいます。
確定申告書
確定申告する際に必要になります。税務署や役所で入手できますが、国税庁のホームページから入手することができ、そのままオンラインで確定申告(国税電子申告・納税システム)することもできます。
購入時の売買契約書(コピー)
購入時の売買契約書があれば、譲渡所得税を計算する際に取得費とすることができます。
売却時の売買契約書(コピー)
売却時の売買契約書があれば、譲渡所得税を計算するときに譲渡費用とすることができます。
建物請負契約書(コピー)
建物請負契約書があれば、譲渡所得税を計算するときに取得費とすることができます。
仲介手数料・印紙代などの領収書
仲介手数料や印紙代の領収書があれば、譲渡費用を計算するときに取得費や譲渡費用とすることができます。
不動産売却の流れ
不動産売却の流れとともに、各書類が必要になるタイミングを紹介します。実際と異なる場合や、なくても問題ない場合もあります。あくまでも目安とし、実際には不動産会社の担当者に確認しましょう。
- 不動産会社へ査定依頼
必要書類 | 備考 |
登記識別情報・登記済権利証(権利証) | 机上査定やオンラインの場合は不要 |
建築確認済証・検査済証 | なくても査定は可能だがあれば用意 |
境界確認書・土地測量図 | 同上 |
建物平面図・間取り図・工事設計図書 | 同上 |
- 不動産会社と媒介契約締結
必要書類 | 備考 |
登記識別情報・登記済権利証(権利証) | 紛失した場合は早めに相談する |
本人確認書類 | 免許証など |
固定資産税都市計画税納税通知書 | 土地の所在などを確認できる |
建築確認済証・検査済証 | なくても媒介契約は可能 |
境界確認書・土地測量図 | 境界が確定していない場合は引渡しまでに測量して境界を確定する |
建物平面図・間取り図・工事設計図書 | なくても媒介契約は可能 |
購入時のパンフレット | マンションの場合 |
- 売買契約締結
必要書類 | 備考 |
登記識別情報・登記済権利証(権利証) | 紛失した場合は早めに相談する |
本人確認書類 | 免許証など |
印鑑登録証明書(印鑑証明書)・実印 | 3ヶ月以内に発行したもの |
固定資産評価証明書 | 登記費用の登録免許税の計算に必要 |
建築確認済証・検査済証 | 契約時はコピーを買主へ渡す |
境界確認書・土地測量図 | 同上 |
建物平面図・間取り図・工事設計図書 | 同上 |
- 残代金決済・引き渡し
必要書類 | 備考 |
登記識別情報・登記済権利証(権利証) | 紛失した場合は司法書士による本人確認などが必要 |
印鑑登録証明書(印鑑証明書)・実印 | 3ヶ月以内に発行したもの |
住民票 | 登記簿上の住所と現住所が異なる場合 |
固定資産評価証明書 | 所有権移転登記に必要 |
固定資産税都市計画税納税通知書 | 決済日に買主と精算する |
建築確認済証・検査済証 | 原本を買主へ |
境界確認書・土地測量図 | 同上 |
建物平面図・間取り図・工事設計図書 | 建築時の間取りなどがあれば原本を買主へ渡す |
購入時のパンフレット | 原本を買主へ渡す |
管理規約・使用細則 | 同上 |
設備の取扱説明書・保証書 | 同上 |
抵当権抹消書類 | 司法書士へ抵当権抹消登記を依頼する場合 |
- 確定申告(翌年の2月16日~3月15日)
必要書類 | 備考 |
確定申告書 | |
購入時の売買契約書(コピー) | 取得費として計算する際に必要 |
売却時の売買契約書(コピー) | 譲渡費用として計算する際に必要 |
建物請負契約書(コピー) | 一戸建ての場合 |
仲介手数料・印紙代などの領収書 | 取得費・譲渡費用を計算するときに必要 |
不動産を売却したら確定申告が必要?
不動産売却により利益が生じた場合は、譲渡所得税がかかるため確定申告が必要になります。
しかし確定申告が必要なのは、売却益が発生したときだけではありません。不動産売却によって生じた損益を、ほかの所得と損益通算する場合も確定申告が必要になります。
この章では、売却益と損益が発生したときに使える税金の特例を紹介します。不動産売却後を想定して、利用できる特例がないか確認しておきましょう。
売却益が発生したときに使える特例
売却益が発生したときに利用できる特例を3つ紹介します。
居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例
マイホームを売却したときで一定の要件を満たす場合、所有期間に関係なく譲渡所得から最高で3,000万円まで控除できる特例です。
なお売却益から取得や譲渡にかかった費用を差し引くことができますが、確定申告時に売買契約書や領収書等が必要になります。
課税譲渡所得金額を算出する計算式は以下の通りです。課税譲渡所得に所有期間に応じた税率を乗じて、譲渡所得税を算出します。
不動産売却による利益-(取得費+譲渡費用)-3,000万円の特別控除=課税譲渡所得金額
所得税 | 住民税 | 復興特別所得税 | 合計 | |
長期譲渡所得 | 15% | 5% | 0.315%(15%×2.1%) | 20.315% |
短期譲渡所得 | 30% | 9% | 0.63%(30%×2.1%) | 39.63% |
※ 国税庁、短期譲渡所得の税額の計算
※ 2037年までは復興特別所得税として、各年分の基準所得税額の2.1%を所得税と合わせて申告し、納付することになります。
マイホームを売ったときの軽減税率の特例
マイホームを売却する場合で、売却年の1月1日に所有期間が10年を超えて一定の要件を満たす場合、6,000万円までの部分は長期譲渡所得に対する税率よりも低い税率が適用になります。
なお3,000万円控除の特例と併用できますが、マイホームの買い替え特例などの他の特例とは併用できません。またこの税率は自動的に適用になりません。一定の必要書類を添えて、確定申告する必要があります。
課税長期譲渡所得金額 | 税額 |
6,000万円以下 | 課税長期譲渡所得金額×10% |
6,000万円超 | 課税長期譲渡所得金額6,000万円を超える部分は15% |
被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例
相続や遺贈により被相続人の自宅や自宅の敷地を2027年12月31日までに売却し、一定の要件に当てはまる場合は、譲渡所得から最高で3,000万円まで控除できます。※5
なお被相続人が購入したときの売買契約書がなく取得費がわからない場合は、売却代金の5%を取得費とすることができ、実際の取得費が5%より低い場合も5%とすることができます。※6
売却損益が発生したときに使える特例
不動産を売却して損失が発生したときに使える特例があります。条件に合う場合は、忘れずに翌年に確定申告して申告しましょう。
マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
マイホームを2023年12月31日までに売却して新居を購入した場合で、旧自宅を譲渡したことにより損失が発生したときは、一定の要件を満たすことを条件にその譲渡損失をその年の給与所得など他の所得と損益通算(控除)できます。※7
その年に控除しきれない場合は、譲渡した年の翌年以降3年にわたって繰り越して損益通算できます。
まとめ
不動産売却時には、さまざまな書類が必要になります。売買契約時や決済時に焦ることがないように、早めに必要書類の有無は確認しておきましょう。
たとえば登記済権利証や登記識別情報が見当たらない場合は、司法書士などに依頼し、本人確認してもらう必要があります。平日に面談しなければならず、思いがけず時間がかかる可能性もあります。後回しにせず、なるべく早く相談しておきましょう。
不動産を売却して利益が生じる場合は、譲渡所得税がかかります。そして確定申告する際にもいくつか書類が必要になります。売買契約書や仲介手数料の領収書などは、ひとまとめにして保管しておきましょう。
※1:不動産売却に必要な書類とは? 不動産・土地売却の必要書類一覧、必要なタイミング、取得方法などを解説
※2:登記識別情報とは
※3:登記識別情報通知って何ですか?
※4:固定資産税・都市計画税(土地・家屋)
※5:国税庁、No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
※6:国税庁、No.3258 取得費が分からないとき
※7:国税庁、No.3370 マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき(マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)