相続は予期せず直面するものです。そのときになって慌てないためにも、ある程度仕組みや税制については把握しておきましょう。
不動産を相続したら、相続人で協議して分割しなければなりません。また相続した金額によっては、相続税が発生します。相続税には申告期限もありますので、忘れないように注意しましょう。
この記事では、相続した不動産を売却するまでの流れと、相続税の計算方法を紹介します。また相続したときにかかる税金とその優遇措置を解説しますので、相続に備えておきたい方はぜひ参考にしてください。
相続した不動産を売却する方法は2パターン
相続した不動産を相続人で分割する場合、遺産を分け合うために売却するケースが多いのではないでしょうか。
ちなみに不動産を売却して、現金化してから相続人で分けることを換価分割といいます。一方で不動産を売却せず、相続人で持ち分を定めて共同で所有することを共有分割といいます。
換価分割するために、相続した不動産を売却する方法は2パターン考えられます。それぞれのメリットや注意すべきポイントを解説しますので、状況に応じて選択しましょう。
- 代表者が相続して売却してから相続人で分配
- 共有名義で相続して売却
代表者が相続して売却してから相続人で分配
相続人の中から代表者を選出し、被相続人から代表者に名義変更登記します。売却代金から売却にかかった経費を差し引いて、相続人で分割する方法です。
相続人が多い場合、売買契約や決済の際にスケジュールを調整するのに苦労するでしょう。しかし代表者1人であれば、スムーズに進めることができます。
注意すべきポイントは、代表者に負担がかかることです。固定資産税の納税についても売却するまでは代表者が義務者になるため、代表者選びが重要になります。
売却価格や条件など、代表者が勝手に決めて進めることはできません。相続人同士で齟齬が生じないように、売買価格や条件について報告や相談は密にとるようにしましょう。
共有名義で相続して売却
不動産売却について代表者を決めず、不動産を相続人全員の共有名義にしてから売却する方法です。手続きに関する負担が平等になるのがメリットです。また固定資産税の納税も公平になります。
デメリットは、全員で手続きしなければならないことです。たとえば売買契約の際には、全員の署名・捺印が必要になります。
かならずしも契約に立ち会う必要はありませんが、委任状や印鑑証明書は用意しなければなりません。また名義変更登記は人数が多い分、司法書士へ支払う報酬が多少高くなるでしょう。
ちなみに共有名義にする場合でも、結局は不動産会社とやり取りする代表者は必要になります。そして売却の進捗などをほかの相続人へ報告して、相談する必要はあります。
共有名義にして売却する場合でも、一人に負担が集中しないように注意するようにしましょう。
相続した不動産を売却するまでの流れ
相続発生から相続した不動産を売却し、確定申告するまでの流れを9つのステップで紹介します。相続税は相続が発生してから10カ月以内に納めなければなりません。なるべくスムーズに進めましょう。
- 遺言書の有無と相続人を確認する
- 遺産分割について協議する
- 遺産分割協議書を作成する
- 相続登記をする
- 相続税を申告する
- 相続不動産の売却を依頼する
- 不動産売買契約を締結する
- 売却によって得た利益を分割する
- 確定申告する
1.遺言書の有無と相続人を確認する
相続が発生したら、まず遺言書があるかどうか確認します。遺言書がある場合は、基本的には遺言にしたがって相続しますが、遺言書がない場合は、相続人で遺産分割協議をします。※1
相続人とは、被相続人の配偶者とその子どもになります。子どもが先に亡くなっている場合は、孫が相続します。(代襲相続)ちなみに内縁関係にある人は、相続人にはなりません。
配偶者と子どもがいない場合は、被相続人の父母や祖父母が相続人になります。
2.遺産分割について協議する
相続とは、被相続人の財産を相続人が承継することです。まず現金や証券、不動産などすべての財産を把握することからはじめます。
遺言書がない場合は、遺産について分割協議をします。ちなみに相続人でその割合について決めることができます。
法定相続分を参考にして分割することがありますが、以下の通りです。※2
相続人 | 相続の割合 |
配偶者のみ | 配偶者がすべて相続する |
配偶者と子どもがいる場合 | 配偶者1/2+子どもの人数で1/2を分割 |
配偶者と被相続人の父親がいる場合 | 配偶者2/3+父親1/3 |
配偶者と被相続人の弟がいる場合 | 配偶者3/4+弟1/4 |
なお遺産分割については4つの方法があります。たとえば不動産を売却し、現金化して分割する方法(換価分割)もあれば、相続人が持ち分を定めて共有で相続する方法(共有分割)もあります。不動産がいくつかある場合には、不動産ごとに相続人を決める方法もあります。(現物分割)
また不動産を売却したくないという相続人がいる場合は、ほかの相続人が相続する分を金銭で代償して分割する方法(代償分割)もあります。
換価分割 | 売却して現金化し、その代金を分割する方法 |
共有分割 | 持ち分を定めて共有で相続して、共有財産にする方法 |
現物分割 | 財産ごとに相続する人を定めて、個別に相続する方法 |
代償分割 | 現物を相続する人が、ほかの相続人へその相続分を金銭で代償することによって分割する方法 |
3.遺産分割協議書を作成する
相続人と遺産分割協議について確定したら、遺産分割協議書を作成します。相続する不動産については、登記簿謄本に記載された内容を明記します。※3
ほかに預貯金や証券があれば、その内容も記載し、分割する割合や方法を明示します。相続人全員の署名と捺印をし、相続人全員が各1通を保管します。
4.相続登記をする
遺産分割協議書ができあがったら、相続登記します。被相続人から相続人に所有権が移るため、不動産を売却できるようになります。
個人でも法務局へ必要書類を提出することによって、相続登記することは可能です。しかし必要書類を用意することが難しい場合や、平日に時間を割けない場合は司法書士へ依頼することをおすすめします。
なお相続登記に必要な書類は以下の通りです。
- 遺産分割協議書
- 被相続人の改製原戸籍(出生から亡くなるまで連続した戸籍)
- 被相続人の住民票の除票
- 相続人全員分の戸籍抄本
- 相続人全員分の印鑑証明書
- 相続人全員分の住民票
- 相続する不動産の固定資産税評価証明書
5.相続税を申告する
相続が発生したら、10カ月以内に相続税を納めなければなりません。万が一提出期限に遅れてしまうと、加算税や延滞税がかかる可能性がありますので注意しましょう。※4
相続した預貯金があればその現金で支払うことができますが、相続税が発生する場合で現金がない場合は、不動産を売却しなければなりません。なるべく早く売却を進めておきましょう。
6.相続不動産の売却を依頼する
不動産を売却する方法には、不動産会社へ仲介を依頼して売却するほか、不動産会社へ直接売却する方法(買取)があります。
なお遺産分割協議書が整う前でも、査定自体は可能です。不動産会社へ相続したことを伝え、早めに査定を依頼しましょう。
売り出し価格を設定し、売却活動を始めます。家財道具は早めに処分し、なるべくきれいな状態で内覧に応じられるようにします。
7.不動産売買契約を締結する
買主と価格や条件に折り合いがついたら、売買契約を締結します。売買契約時に相続人全員が立ち会う必要はありませんが、その場合は代表者へ委任する委任状と印鑑証明書が必要になります。
契約書に定めた手付金を買主から受領します。また売買契約成立時に不動産会社への仲介手数料の半金を支払うケースが多いため、事前に支払うタイミングを確認しておきます。
8.売却によって得た利益を分割する
買主とスケジュールを調整して定めた決済日に残代金を受領し、不動産を引き渡します。また不動産会社へ仲介手数料(半金もしくは全額)を支払います。
売買代金から売却にかかった費用を差し引き、あらかじめ定めた割合により相続人で分割します。
9.確定申告する
相続不動産を売却した場合でも、譲渡所得が発生する場合は翌年に確定申告する必要があります。
確定申告申請期間は、翌年の2月16日から3月15日です。万が一確定申告をしなかった場合は無申告加算税、期限に間に合わなかった場合は延滞税がかかりますので注意しましょう。
相続税の計算方法
相続税には基礎控除があり、相続人の人数に応じて控除があります。※5
遺産総額-(基礎控除3,000万円+法定相続人×600万円)=課税遺産総額
たとえば遺産増額が1億円、配偶者が8,000万円、子ども2人がそれぞれ1,000万円相続した場合は以下の通りです。
1億円-(3,000万円+1,800万円)=5,200万円(課税遺産総額)
5,200万円を配偶者と子どもで按分すると、配偶者は2,600万円・子供は1,300万円ずつです。
相続税の速算表を使って計算すると以下の通りです。
- 配偶者:2,600×15%-50万円=340万円
- 子ども:1,300×15%-50万円=145万円×2人分
相続税の速算表
課税価格 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | なし |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
※:国税庁、No.4155 相続税の税率
340万円+145万円+145万円=630万円
配偶者と子ども2人分の相続税の合計は630万円となります。
さらに630万円を実際の相続割合で按分すると以下の通りです。
- 配偶者:8,000万円/1億円・・・504万円
- 子ども:1,000万円/1億円・・・63万円
- 子ども:1,000万円/1億円・・・63万円
なお配偶者には税額軽減があり、課税価格1憶6,000万円まで、もしくは法定相続相当額までであれば相続税はかかりません。
よって配偶者は相続税が発生しませんが、子どもはそれぞれ63万円の相続税が発生します。相続税の申告書は、被相続人が死亡した際に居住していた住所地を管轄する税務署へ提出します。
申告書等の様式は国税庁のホームページをご参照ください。なおe-Tax(電子申告)による申告も可能です。
相続不動産に使える優遇措置
相続不動産に使える優遇措置を以下の通り3つ紹介します。適用できるのか確認しておきましょう。
- 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
- 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
- 小規模宅地等の特例
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
相続や遺贈によって、被相続人の自宅またはその敷地を取得した場合、2016年4月1日から2027年12月31日までに売却して、一定の要件にあてはまるときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円控除することができます。※6
1981年5月31日以前に建築された建物で、相続が発生する直前に被相続人以外が住んでいなかったことが要件になります。なお区分所有建物であるマンションは適用になりません。
相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
相続や遺贈によって取得した土地や建物を譲渡したときで、一定期間内に売却できた場合は、相続税額のうち一定金額を譲渡所得の取得費として加算することができます。※7
相続が発生した日の翌日から相続税の申告期限(相続税が発生してから10ヵ月)の翌日以後3年を経過する日までに譲渡する必要があります。つまり相続が発生してから3年10カ月以内です。
小規模宅地等の特例
相続や遺贈によって取得した不動産で、相続が発生する直前に被相続人または被相続人と生計を同じくしていた親族の事業用もしくは居住用とされていた宅地が対象になります。※8
一定の要件を満たす場合は、敷地のうち一定面積までの部分について、相続税の課税価格に算入する価額を減額することができます。
たとえば被相続人が居住用としていた宅地で、特定居住用住宅地等に該当する場合は、330㎡を限度として評価額を80%減額できます。詳しくは国税庁のホームページをご参照ください。
相続不動産を売却するときにかかる税金
相続不動産を売却するときにかかる可能性がある税金は、以下の通りです。
- 相続税
- 相続登記の登録免許税
- 売買契約時にかかる印紙税
- 売却益が発生したときにかかる譲渡所得税
相続税
配偶者が相続した財産のうち1億6,000万円まで、もしくは法定相続分までは相続税は発生しません。なお配偶者控除を受けるためには、税務署へ相続税の申告をする必要がありますので注意しましょう。
相続登記の登録免許税
相続登記をする際には、登録免許税がかかります。以下の通り計算しますが、固定資産税評価額は1,000円未満については切り捨てになり、登録免許税についても100円未満は切り捨てになります。
登録免許税=固定資産税評価額×0.4%
売買契約時にかかる印紙税
不動産を売却する場合、売買契約書に印紙を貼付して印紙税を支払う必要があります。相続によって取得した不動産を売却する場合も同様です。
なお印紙税については2024年3月31日までは軽減措置があり、基本となる税額と軽減税額は以下の通りになります。
記載された契約金額 | 税額 | 軽減後の税額(2027年3月31日まで) |
10万円超50万円以下 | 400円 | 200円 |
50万円超100万円以下 | 1千円 | 500円 |
100万円超500万円以下 | 2千円 | 1千円 |
500万円超1,000万円以下 | 1万円 | 5千円 |
1,000万円超5,000万円以下 | 2万円 | 1万円 |
5,000万円超1億円以下 | 6万円 | 3万円 |
1億円超5億円以下 | 10万円 | 6万円 |
売却益が発生したときにかかる譲渡所得税
相続で取得した不動産であっても、譲渡することによって譲渡益が発生した場合は譲渡所得税が発生します。税率は所有する期間によって異なり、計算式は以下の通りです。
なお被相続人が所有していた期間を相続人はそのまま引き継ぐことができます。つまり被相続人が取得したときから、相続人が譲渡した年の1月1日までの所有期間で判定します。
不動産売却による利益-(取得費+譲渡費用)-特別控除=課税譲渡所得金額
課税譲渡所得金額×所有期間に応じた税率=譲渡所得税額
所得税 | 住民税 | 復興特別所得税 | 合計 | |
長期譲渡所得(5年を超える) | 15% | 5% | 0.315%(15%×2.1%) | 20.315% |
短期譲渡所得(5年以下) | 30% | 9% | 0.63%(30%×2.1%) | 39.63% |
※ 国税庁、短期譲渡所得の税額の計算
※ マンションを売却したら住民税が上がる?税金の計算方法と軽減する方法を解説
※ 2037年までは復興特別所得税として、各年分の基準所得税額の2.1%を所得税と合わせて申告し、納付することになります。
まとめ:相続不動産の売却方法と相続税の仕組み
相続税の申告は10ヵ月以内にしなければなりません。しかしあらかじめ相続税が発生しないことが想定できれば、必要以上に慌てる必要はありません。
事前に相続税の計算方法と優遇措置を把握しておきましょう。また遺産分割協議書によって相続の割合が決定する前でも、不動産会社へ査定依頼することは可能です。なるべく早い段階で査定依頼しておくことをおすすめします。
※1:国税庁、No.4132 相続人の範囲と法定相続分
※2:法定相続分とは?計算方法は?遺産分割したときの割合を図解で解説
※3:【遺産分割協議書とは?】ひな形や書き方、14種類の文例を解説!
※4:国税庁、相続税の申告のしかた
※5:国税庁、No.4155 相続税の税率
※6:国税庁、No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
※7:国税庁、No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
※8:国税庁、No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)