住宅ローンの残債は完済して、抵当権を抹消しなければ家を売ることはできません。しかし、返済が終わるまで「売り出せない」ということではありません。
買主に所有権を移転する前に抵当権を抹消できればよく、決済時に買主から受領する売買代金で完済できれば売却することができます。
この記事では、住宅ローン返済中の不動産をスムーズに売却するための方法と、オーバーローンに対する対処法を紹介します。
住宅ローン返済中でも売却はできる
住宅ローンが残っている状態でも、家を売り出すことはできます。住宅ローンを完済する前に売り出している方は、実際多く存在します。
建物の価値は経年とともに減少するため、たとえば30年の住宅ローンを30年かけて返済してから売却するよりも、建物の価値が残っているうちに売却した方が高値で売れるでしょう。
ただし住宅ローンが残っている家を売却するためには、所有権を買主に移転する前に、抵当権を抹消しなければなりません。抵当権がついたままで、いつ差し押さえられるかわからない家を購入する人はいないからです。
まず住宅ローン残債額と売却想定価格を調べて、住宅ローンを完済できるのか確認しましょう。
住宅ローン返済中の家の売却依頼するまでの流れとは?
住宅ローンの返済が残っている家を売却するためには、何から始めたらよいのでしょうか。
不動産会社に売却依頼するまでの、おおまかな流れは以下の通りです。それぞれのステップを詳しく紹介していきます。
- 住宅ローンの残債額を確認する
- 売却想定価格を確認する
- 不動産会社に査定依頼する
- 不動産売却にかかる諸費用を計算する
- 不動産会社へ売却を依頼する
住宅ローンの残債額を確認する
住宅ローンの返済が残っている場合は、まず残債がいくら残っているのか確認しましょう。決済時に買主から受領する売買代金で完済できない場合は、自己資金を充当するなど、何かしらの手立てが必要になります。
住宅ローンの残債額を確認するための、4つの方法を紹介します。
返済予定表(償還予定表)で確認する
金融機関によって名称が異なることがありますが、返済予定表(償還予定表)で残債額を確認できます。住宅ローンを組んだときに発行されるものですが、手元にない場合は再発行を依頼することもできます。
残高証明書で確認する
残高証明書とは、年末の時点の住宅ローンの残高を証明する書面です。送られてくる時期は金融機関によって多少異なりますが、一般的には10~11月頃に郵送で送られてきます。
ちなみに住宅ローン控除を受ける際に必要な書類です。残高証明書が手元にない場合は再発行を依頼できますが、金融機関によって有料の場合もあるので注意しましょう。
金融機関の窓口で確認する
返済予定表や残高証明書の再発行は、金融機関の窓口でも依頼することができます。店舗で受け取るか、郵送を依頼します。
本人確認書類や通帳またはキャッシュカード、お届け印などが必要になり、金融機関によって有料の場合もあるので、事前に必要書類についても確認しておくとよいでしょう。
オンライン上で確認する
金融機関によっては、Webサイト上で返済表を閲覧できこともあります。またインターネットバンキングを利用している場合は、24時間パソコンやスマートフォンで確認できるので便利です。
売却想定価格を確認する
次に、家がいくらぐらいで売却できるのか調べてみましょう。不動産会社に査定を依頼するのが一般的ですが、成約事例を検索できるサイトなどでも不動産の相場を調べることもできます。
不動産会社に査定依頼する
不動産がいくらで売却できるのか知りたいときは、不動産会社に査定を依頼します。査定には2種類あり、不動産を一定の情報だけで査定する「机上査定」と、不動産会社の担当者が実際に不動産を見て査定する「訪問査定」があります。
それぞれの特徴は、以下の通りです。
机上査定
その手軽さから簡易査定といわれることもありますが、実際に不動産を調査せずに査定を行う方法です。たとえば土地の大きさや建物の床面積、築年数など、一定の情報をもとに、
近隣の成約事例や売り出し中の物件の価格などを考慮して査定額を算出します。
査定を依頼するのにかかる時間は数分程度で、早ければその日のうちに査定額がわかることもあります。訪問査定に比べると精度は低くなりますが、大幅な差がないことがほとんどのため、すぐに査定額を知りたいときや、売却するかどうか判断するときに便利です。
訪問査定
不動産会社の担当者が、実際に不動産を調査して査定する方法です。たとえば戸建ての場合は、外観や室内とあわせて周辺環境や、交通や生活の利便性なども調査対象になります。
居室だけでなくクローゼットの中も確認しますので、気になる方は整理整頓しておきましょう。広さにもよりますが、通常戸建ての場合は調査に1~2時間程度かかります。
不動産会社は役所や法務局で不動産について調査し、査定に必要なデータを集めて査定価格を算出するため、査定書ができあがるまでに1週間程度かかると心得ておきましょう。
不動産を売却する前に、かならず訪問査定が必要になります。机上査定である程度依頼する不動産会社を選定から訪問査定する方法もありますが、売却することが確定している場合は、訪問査定を依頼しましょう。
不動産取引情報提供サイトで調べる
不動産の取引価格は、情報提供サイトで調べることができます。条件を絞ることができるため、調べたい不動産に似ている成約事例を比較的簡単に検索できます。
この章では、2つの不動産取引価格に関する情報提供サイトを紹介します。
レインズマーケットインフォメーション
レインズマーケットインフォメーションとは、国土交通大臣が指定する不動産流通機構(レインズ)が運営しているシステムです。個人でもマンションや戸建ての成約価格を地域や条件を指定して検索できます。なお登録等は不要で、無料で利用できます。
沿線や築年数などの追加検索条件を入力することで、調べたい不動産と似ている物件の成約事例を検索できるので、おおよその相場を把握できます。
土地総合情報システム
土地情報システムとは、国土交通省が運営しているシステムです。宅地や土地建物、マンションの取引価格を、時期や地域を指定して検索できます。
不動産の種別を選び、成約時期と地域を選んで検索します。住所もしくは沿線・駅名から探すことができ、成約事例の道路の向きや幅員も分かるため、かなり詳しく比較することができます。
不動産売却にかかる諸費用を計算する
不動産を売却するためには、諸費用がかかります。売買代金や自己資金から負担しなければならないため、売却を進める前に売却にかかる諸費用を試算しておくことが重要です。
この章では、一般的に不動産を売却するときにかかる諸費用と、支払うタイミングを紹介します。
諸費用の試算や、かかる可能性がある費用について判断が難しいときは、不動産会社の担当者に相談してみましょう。
諸費用 | 支払うタイミング | |
仲介手数料 | 不動産会社へ支払う手数料 | 契約時に半額、決済時に半額が一般的 |
印紙税 | 課税文書である売買契約書に、収入印紙を貼付することで納税するもの | 契約締結時 |
抵当権抹消登記費用 | 抵当権抹消登記を依頼する司法書士へ、登記にかかる登録免許税と報酬を支払う | 決済時 |
住所変更登記費用 | 実際の住所と登記上の住所が異なる場合、住所変更登記が必要 | 決済時、もしくは住所変更登記依頼時 |
住宅ローン一括返済事務手数料 | 住宅ローンを一括返済するときにかかる事務手数料。金融機関によって異なる | 決済時、もしくは一括返済するとき |
引越し費用 | 引越し会社へ支払う費用 | 引越しした後 |
譲渡所得税 | 不動産を売却して利益が発生したときにかかる税金で、確定申告して納付する | 翌年の2月16~3月15日までに確定申告する |
土地の測量費用ハウスクリーリング費用など | 土地の測量費用や建物の解体費用、ハウスクリーニング費用など、契約条件や必要に応じて実施した場合かかる費用 | それぞれ依頼したとき(決済前) |
オーバーローンになる場合の対処法
家の売買代金や資産価値よりも、住宅ローンの残債や借入額が多いことを一般的に「オーバーローン」といいます。
オーバーローンの場合は、売買代金だけでは住宅ローンを完済できません。たとえば決済時に自己資金を充当するなど、対処が必要になります。
購入時に不動産価格の100%を住宅ローン組んで購入したケースや、諸費用ローンを利用した場合はオーバーローンになりやすいので注意しましょう。
しかしオーバーローンになる場合でも、何かしらの対処することで売却は可能です。参考として、5つの対処法を紹介します。
自己資金を充当する
住宅ローンの残債額に対し、売買代金で足りない分を自己資金で用意する方法です。足りない分を金融機関に支払うことで完済でき、決済日当日に抵当権を抹消することができます。
ただし、不動産を売却する場合は諸費用がかかります。また生活費も残しておかなければなりませんので、慎重に資金計画を立てましょう。
住み替えローンを利用する
自宅を売却して新居を購入する場合は、住み替えローン(買い替えローン)を利用する方法があります。
住み替えローンを利用できれば、返済途中の住宅ローンと新居を購入するための住宅ローンをまとめて借りることができます。
しかし担保に対して借入額が大きくなるため審査は厳しく、金利が高くなる傾向があります。住み替えローンについては、まずは金融機関に相談してみましょう。
また自宅の抵当権抹消と新居の抵当権設定を同日に行わなければならず、不動産会社の協力も必要です。不動産会社選びや担当者のスキルも重要になるでしょう。
親族から資金援助を受ける
自己資金が足りない場合は、親族からの資金援助を相談してみましょう。贈与税には基礎控除があり、年間110万円(暦年贈与)までは非課税になります。※1
また相続時精算課税制度を利用することで、2,500万円までは贈与税を納めずに贈与を受けることができます。原則贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母(または祖父母)から、18歳以上の子(または孫)に対し贈与したときに選択できる贈与税の制度です。※2
しかし贈与時に贈与税がかからないだけで、相続時に相続税がかかる可能性があります。また2,500万円に達するまで何度でも贈与を受けることができますが、一度相続時精算課税制度を利用すると、暦年贈与に戻ることはできませんので注意しましょう。
なお相続時精算課税制度を利用する場合は、確定申告が必要になります。
売却時期を延期する
家を売却するタイミングを延期できる場合は、売却時期の見直しをしましょう。住宅ローンは、返済を続けることで残債は減少します。売却時期を想定し、返済予定表で残債額を確認して貯金額を増やす計画を立てましょう。
任意売却する
収入の減少や病気で働けなくなるなど、住宅ローンの月々の返済が難しくなることがあります。自宅を売却したくてもオーバーローンで売却できないときは、競売になる前に任意売却するのも1つの方法です。
任意売却とは、競売を回避するために債権者(保証会社など)と住宅ローンの残債務について協議したうえで、一般の市場で売却する方法です。
債権者に売却価格や返済額について同意を得なければなりませんが、競売による落札価格よりも高く売却できる可能性があります。
ただし売却価格によっては住宅ローンの債務が残ることがあり、返済が続くケースもあります。任意売却する条件をよく確認したうえで、慎重に決定するようにしてください。
アンダーローンなら決済時に売買代金で完済できる
家の売買代金よりも、住宅ローンの残債額が少ないことを一般的に「アンダーローン」といいます。売買代金で住宅ローンを完済できるため、比較的スムーズに売却をすすめることができます。
しかし、家を売るときに悩むのが「売り」と「買い」のタイミングです。通常同時に売り買いするのは難しいため、自宅を売却してから新居を購入するか、新居を購入してから自宅を売却します。
この章では「売り先行」と「買い先行」について解説します。
売り先行とは?
自宅を売却し、一度賃貸物件などに仮住まいしてから新居を購入することを、一般的に売り先行といいます。売買価格が確定してから新居を購入できるため、資金計画が立てやすいことがメリットです。
住宅ローンの残債がある方で「安心して住み替えをしたい」という方におすすめの方法です。
しかし仮住まいしなければならないため、手間と引越し代が2回かかり、仮住まいの期間が長くなった場合はその分費用がかかります。
自宅売却中に新居探しも同時に進めることで、仮住まいの期間を短くできます。できれば売却と購入について同じ不動産会社へ依頼し、その両方を相談できるようにしておくとよいでしょう。
買い先行とは?
買い先行とは、新居を先に購入し、引越ししてから自宅を売却する方法です。引越しは1度で済み、空き家の状態で家を売却できるのがメリットです。また不動産会社へ鍵を貸し出すことで内覧に立ち会う必要がなくなるので、週末の計画を立てやすいでしょう。
しかし、売却価格が分からない状態で新居を購入することになるので、資金企画が立てにくく「自宅が売却できるまで気が休まらない」と感じる方も多いでしょう
住宅ローンの残債残っている場合は、新居をつなぎ融資を利用して購入し、自宅が売却できたら一括返済する方法があります。しかし一時期だとしてもダブルローンになるため、資金的にゆとりがある方におすすめの方法です。
まとめ
住宅ローンが残っている状態でも、家は売ることができます。しかし決済時に住宅ローンを完済し、抵当権を抹消する必要があります。売却を検討する際は、まず住宅ローンの残債額と査定額を確認するようにしてください。
オーバーローンになる場合でも、自己資金が用意できれば売却は可能です。売却するためにかかる諸費用も含めて試算し、無理のない資金計画を立てましょう。