マンションは築30年~40年ぐらいになると、大規模修繕だけでなく建て替えについても検討することが増えてきます。配管設備の更新や耐震強度の確保は、部分的な改修では難しいのがおもな要因でしょう。
しかしマンション建て替えは多額の費用がかかるうえ、仮住まいの問題や手続きの難しさなどもあり、一筋縄ではいきません。
この記事では、マンション建て替えにかかる所有者の負担額の相場や、建て替えたときのメリット・デメリット、また実際の建て替えの流れを解説します。
また建て替え費用を負担できない方のために、マンションを売却する方法など、対処法も紹介しますので参考にしてください。
建て替え時の所有者の負担額の相場
マンション建て替えと聞いて、一番気になるのは所有者の負担額ではないでしょうか。
一般的にマンション建て替え時の負担額は、1,000~3,000万円といわれています。
建て替え費用の内訳は、マンションの解体費用や建て替えマンションの設計費用、建築費用、調査費用、手続きにかかる費用などです。
また採用する仕様や設備のグレード、マンションの総戸数によってはこれより高額になる可能性もあり、今後建築資材や人件費が高騰すれば、負担額にも大きく影響するでしょう。
ほかにも、仮住まいの家賃や引っ越し費用もかかります。所有者の年齢層が上がっていることを考えれば、簡単に用意できる金額ではありません。建て替えが難航する要因の一つでもあります。
マンション建て替えの実績はどのくらい?
実際には、どのくらいのマンションが建て替えをしているのでしょうか。
国土交通省のデータによれば、マンションが建て替えられた実績は累計282件、約2.3戸(2023年3月現在)です。一方で築40年以上のマンションストック数は約125.7万戸(2022年末)あります。※1
築40年のマンションだからといいって、かならずしも建て替えなければならないということではありません。しかし建て替えをしているケースが、圧倒的に少ないことが分かります。
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マンションは築何年で建て替えすべき?
鉄筋コンクリート造の居住用マンションの耐用年数は47年ですが、これは会計上の数字であり、建物の寿命を示すものではありません。※2
またマンションによって劣化の度合いは異なるため、一概に何年で建て替えしなければならないなどと判断することは難しく、個別に検討する必要があるでしょう。
ちなみに東京カンテイのデータによれば、マンションの竣工から建て替え工事の竣工までの期間で一番多かったのが「築40年以上50年未満」で全体の34.4%で、次いで多いのが「築30年以上40年未満」の28.6%でした。多くのマンションが築40年前後で建て替えしていることが分かります。※3
マンションの建て替えには所有者の4/5以上の賛成が必要
マンションの建て替えは、誰が決めるのでしょうか。管理会社からの提案が発端になったとしても、実際に建て替えを決めるのは区分所有者(マンションの所有者)です。
マンションの建て替え決議には、区分所有者および議決権の4/5以上の賛成が必要です。つまり賛成する人がこれよりも少なければ、いつまで経っても建て替えはできません。
しかしマンションの建て替えが進まない状況を重く見た政府は、老朽化したマンションの建て替えを促進させるために、法務大臣の諮問機関である法制審議会において、区分所有法の改正(マンション建て替え要件の緩和)を検討しています。
現行の「4/5以上」を一定の条件下では「3/4以上」に引き下げる要綱案がすでにまとめられており、区分所有法などの改正案が2024年の通常国会に提出される見通しです。※4
マンション建て替え要件が緩和されれば、今後マンションの建て替えが進む可能性があります。今後、建て替え費用負担の話も他人ごとではなくなるかもしれません。
マンションを建て替えるメリット
マンションを建替えると、どのようなメリットがあるのでしょうか。代表的なメリットを3つ紹介します。
- マンションの資産価値が向上する
- 住環境がよくあり住みやすくなる
- 共用部分だけでなく専用部分も新しくなる
マンションの資産価値が向上する
マンションは経年によりその資産価値は減少しますが、建て替えることで新築になるため資産価値が向上します。
また耐震基準も現行の基準を満たすことになり、住宅ローンが組みやすい条件のマンションになります。築が浅く、資産価値が高いうちに売却すれば、高値での売却も可能でしょう。
住環境がよくなり住みやすくなる
専有部分だけでなく、共用部分の設備や構造も新しくなります。マンション全体の住環境はよくなり、耐震性も向上するため安心して暮らすことができます。
また、建て替え前に感じていた不便さや不具合を建て替え時に解消できれば、より快適に暮らすことができるでしょう。
共用部分だけでなく専有部分も新しくなる
マンション建て替えにより、専有部分の設備も新しくなります。最新の設備を使うことができ、内装もきれいになります。また給水の配管も新しくなるため、気持ちよく過ごすことができるでしょう。
マンションを建て替えるデメリット
マンション建て替えには、どのようなデメリットがあるのでしょうか。代表的ともいえるデメリットを3つ紹介します。
- 建て替え費用の負担が大きい
- 部屋が狭くなる可能性もある
- 仮住まいをしなければならない
建て替え費用の負担が大きい
建て替えの最大のデメリットは、数千万円単位の費用を負担しなければならないことです。1戸あたりの負担額は1,000~3,000万円ともいわれていますが、マンションの総戸数が少ない場合や、採用する仕様や設備によってはより高額になる可能性もあります。
また仮住まいや引っ越しにも費用がかかるため、所有者にとって大きな負担になるでしょう。
部屋が狭くなる可能性もある
マンションが既存不適格建築物である場合、建て替え時に現状と同じ床面積を確保できない可能性があります。
既存不適格建築物とは、建築時には適法であったものの、その後の建築基準法などの改正により、現行の法令に適合しなくなった建築物のことをいいます。
そのまま住んでいる分には問題ありませんが、建て替え時には現行の法令に適合するようにしなければなりません。
つまり、従前のマンションと同じ高さや容積の建物を建てられるとは限りません。したがって条件によっては、部屋が狭くなることもあります。建て替えをするか否か協議する際に、この点についてよく検討する必要があるでしょう。
仮住まいをしなければならない
マンションを建て替えする場合は、仮住まいが必要です。建て替え後のマンションへの引っ越しを含めると、2回転居しなければなりません。
所有者自身が、仮住まいの家賃や引っ越し費用についても負担することになります。また仮住まいを近隣で借りられない場合は、住み慣れた環境から離れなければならず、とくに高齢者は心理的にも負担を感じるかもしれません。
マンション建て替えの流れ
マンションを建て替える一般的な流れを、4つのステップで紹介します。もしマンションの建て替えについて話が進んでいる場合は、現在どの段階なのか確認してみましょう。※5
- 建て替えについて情報収集
- 建て替えについて検討
- 建て替えの計画
- 建て替え組合の設立と工事の実施
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建て替えについて情報収集
築30~40年ぐらいになると、マンションを大規模修繕することで維持するか、それとも建て替えするかなど検討するタイミングになってきます。マンションの建て替えについてデベロッパーやマンション管理士などの専門家に相談し、建築費用や販売する場合の価格などを提案してもらいます。
建て替えについて検討
建て替えする場合と大規模修繕する場合の双方のケースを想定し、どちらにするか検討します。マンションの区分所有者にアンケートなどを実施し、建て替えについて意見を求めるなどして、方向性を定めていきます。外部の専門家に、正式に依頼するのもこのタイミングです。
建て替えの計画
建て替えを依頼するデベロッパーやゼネコンを選定し、マンションの建て替えのスケジュールなど建築の計画を立てます。管轄行政と調整をはかり、近隣住民と協議などをする段階です。区分所有者の4/5以上の賛成を得ることができたら、建て替えが決定します。
建て替え組合の設立と工事の実施
まずマンションの建て替えを進めるために、建て替え組合を設立します。住民は仮住まい先に引越し、新しいマンションの工事を始めます。建て替え工事完了後、住民が入居し完了です。
建て替えの負担金支払いが難しい場合の対処法
建て替え費用の負担が難しい場合は、どうしたらよいのでしょうか。この章では、3つの対処法を紹介します。
- 住戸(区分所有権・敷地利用権)を売却する
- 建て替え時に部屋数を増やして販売する
- マンションの敷地を売却する(敷地売却)
住戸(区分所有権・敷地利用権)を売却する
マンション建て替え替えのために設立した「建て替え組合」に、所有する住戸の権利を売却する方法があります。
建て替え組合は「マンションの建て替えに参加しない」と回答した区分所有者に対して、区分所有権および敷地所有権を売り渡すように請求する権利を持っています。(売り渡し請求権)※5
つまり建て替えに参加したくない場合は、建て替え組合に住戸の権利を時価で売却でき、
そのうえそれまで毎月積み立てていた修繕積立金の返還を受けることができます。
もし建て替え決議がされる前や、まだ建て替えするかどうか決まっていない段階であれば、一般の市場でマンション売却することができます。
マンションの建て替えは、準備から建て替え工事実施までに10年以上かかるケースが多く、状況によっては15年から20年かかることもあります。
しかしマンションの建て替えの計画が進むにつれて、買い手がつきにくくなることもあります。将来的に売却を検討している場合は、早めに売却を検討しましょう。
なおマンションを仲介により売却する場合も、諸費用がかかります。住宅ローンの残債がマンション売却価格を上回る場合は、自己資金を充当するなどして完済しなければなりません。
あらかじめ売却に係る諸費用も試算し、ゆとりを持って資金計画を立てましょう。おもなマンション売却にかかる諸費用は以下の通りです。
諸費用 | |
仲介手数料 | 不動産会社へ支払う手数料 |
印紙税 | 売買契約書に貼る印紙代 |
登記費用 | 登録免許税と司法書士への報酬(抵当権抹消登記・住所変更登記) |
住宅ローン完済事務手数料 | 住宅ローンを完済するときにかかる金融機関の事務手数料 |
譲渡所得税 | マンションを売却して利益が発生したときにかかる所得税 |
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建て替え時に部屋数を増やして販売する
もし現状敷地に対して容積率に余裕があれば、建て替え時に床面積を増やすことができます。容積率とは敷地に対する床面積の割合です。
容積率の上限まで床面積を増やすことで、住戸数も増やすことができれば、その部屋を販売できます。マンション建て替えにかかる費用を捻出することができれば、所有者の負担を軽減できます。
実際に階数や床面積を増やせるかどうかについては、設計会社やデベロッパーに相談してみましょう。
マンションの敷地を売却する(敷地売却)
区分所有者全員の同意があれば、マンションの敷地をデベロッパーに売却することもできます。(特定行政庁からマンションについて要除却認定を受けた場合は4/5以上の多数決による決議)
つまり区分所有者は、敷地を売却することで対価を得ることができ、そのお金で他の住居(分譲マンションや賃貸マンションなど)へ引っ越すことができます。
マンション建て替え法に基づいてマンションの敷地を売却する場合は、マンションを買い受けるデベロッパー等へマンションと敷地を売却し、買い受け人はマンションを解体して新しいマンションを建てます。
まとめ
マンションの建て替えは、所有者の負担が1,000万円~3,000万円かかるといわれており、仮住まいや引っ越し費用も含めると大きな負担になります。
誰もが支払える金額ではありませんので、マンション建て替え決議がスムーズに進まない可能性もあります。
またマンションが既存不適格建築物である場合は、現状の高さや容積を確保できず、各所有者の部屋が狭くなる可能性もあります。建て替えをする際は、建て替え後の広さや条件を確認する必要があります。
建て替え費用の負担や、仮住まいすることが難しい場合は、マンションの売却も視野に入れて検討しましょう。
※1:国土交通省、マンション長寿命化・再生円滑化について
※2:耐用年数(建物/建物附属設備)
※3:東京カンテイ、全国のマンション建替え事例282件を徹底検証
※4:老いるマンション・団地、要件緩和で再生 24年法改正へ
※5:マンション再生ガイドブック