不動産の価値を知りたいとき、まず不動産会社への相談を検討する方が多いのではないでしょうか。
不動産会社へ不動産の評価を依頼する場合、通常それは不動産査定になります。不動産鑑定とはいいません。
不動産査定と不動産鑑定はどのような違いがあるのでしょうか。この記事では不動産鑑定と不動産査定の違いや、不動産鑑定が必要になるタイミングを解説します。
また不動産鑑定を実際に依頼する流れや、依頼する場合にかかる費用相場も紹介します。これから不動産の価値を調べたいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
不動産鑑定とは?
不動産鑑定とは、国家資格を保持する不動産鑑定士が不動産の適正な経済的価値を判定し、その結果を価額に表すことです。※1、2
不動産鑑定士は、不動産鑑定士試験に合格した後に実務修習を修了し、国土交通大臣の登録を受けた者です。また不動産鑑定業を営む場合は、国土交通省(2以上の都道府県に事務所を設ける場合)もしくは都道府県に備える不動産鑑定業者登録簿に登録を受けることになっています。※3
その他にも不動産の鑑定評価に関する法律によって、不動産鑑定士や不動産鑑定業の業務や義務について定められています。
不動産鑑定士は不動産鑑定評価基準に従って不動産を調査し、鑑定評価手法を用いて不動産鑑定を行います。不動産鑑定評価は公的証明力があるため、公示価格など国が公表する標準値の鑑定評価を行っています。
不動産鑑定士以外のものが、不動産鑑定をすることはできません。つまり不動産鑑定は、不動産鑑定士の独占業務になります。
不動産会社が不動産の資産価値を評価することは通常「不動産査定」と呼び、不動産鑑定とは区別されています。
不動産鑑定士の業務
不動産鑑定士の業務は、不動産会社の査定業務と比べるとあまりイメージできないかもしれません。しかし不動産鑑定士が専門に行っている業務があります。※4
例えば毎年国土交通省が公表している地価公示は、2人以上の不動産鑑定士が標準地について鑑定評価し、土地鑑定委員会が審査・調整したうえで決定しています。※5
公的機関が公表している土地の価格に基準地価や路線価がありますが、いずれも不動産鑑定士の鑑定評価をもとに決めています。
調査主体 | 発表時期 | 価格の決め方 | |
公示地価 | 国 | 毎年3月下旬 | 1地点につき2名以上の不動産鑑定士が鑑定評価をもとに決める |
基準地価 | 都道府県 | 毎年9月下旬 | 1地点につき1名以上の不動産鑑定士が鑑定評価をもとに決める |
路線価 | 国税庁 | 毎年7月1日 | 不動産鑑定士による鑑定評価額や公示地価、売買実例価格をもとに決める |
しかし不動産鑑定士が行うのは、公的な不動産鑑定だけではありません。法人や個人からの依頼によって不動産鑑定も行ないます。
不動産鑑定士は不動産の資産価値を客観的に評価できるため、不動産のコンサルティング業務として不動産の価値の評価や、金融業界において不動産の担保評価などを行っています。
不動産査定とは?
不動産査定とは、不動産会社に土地や戸建て、マンションなどを売却することを前提に、その不動産の売却想定価格を算出してもらうことです。
不動産会社は、査定する不動産と似ている不動産の成約事例や、売り出し中の不動産と比較し、またそのエリアの需要や市場の状況を加味して査定額を出します。
不動産会社によって査定方法や参考にするデータが異なるため、不動産会社ごとに査定額は異なるケースが多いです。
不動産査定によって提示された価格は売却想定価格であって、その価格で売却できることを約束するものではありません。したがって売却を依頼する際は、一番高い査定額を提示したことだけを理由に決めないようにしましょう。
なお不動産査定には、机上査定と訪問査定があります。
机上査定
机上査定は実際に不動産の現地調査をしないで査定する方法です。土地の大きさや建物の築年数など、一定の情報と近隣の成約事例や需要などを参考にして査定価格を算出します。
オンライン上で机上査定を依頼する場合、情報を入力するのにかかるのは数分程度です。その手軽さから簡易査定と呼ばれることもあります。
実際に建物を調査しないため、建物の状態や設備の有無は加味されません。実際に売却を依頼するのであれば、かならず訪問査定が必要になります。
机上査定は、とりあえずおおまかな査定額を知りたいときに便利な査定方法です。また、実際に訪問査定や売却依頼をする前に、依頼する不動産会社を選定するために利用する方が多いです。
訪問査定
不動産会社の担当者が、実際に現地を調査して査定する方法です。建物の仕様や設備の状態、周辺環境も調査対象になりますので、机上査定に比べてより正確な査定額を知ることができます。
不動産会社は現地調査の他に、役所や法務局においても調査し、査定に必要なデータを集めて査定価格を算出します。
住宅であれば、基本的に室内はすべてを調査します。建物の広さなどによっても異なりますが、査定に1~2時間程度、査定書ができあがるまでに1週間程度かかります。
不動産鑑定と異なり公的証明力はありませんが、不動産を売却するために不動産の評価を知りたいのであれば、不動産査定で問題ありません。また無料で利用できるのがメリットです。
不動産鑑定を利用するタイミング
不動産を売却するときは、不動産査定で問題ないとしたら、個人が不動産鑑定を依頼するタイミングはどのようなときなのでしょうか。ここでは不動産鑑定を依頼する代表的なケースを3つ紹介します。
- 相続した財産を分割するとき
- 離婚によって財産分与するとき
- 個人間で不動産を売買するとき
相続した財産を分割するとき
相続した不動産を複数人で分割する場合、まず不動産の価値を正しく把握する必要があります。不動産の鑑定評価を用いれば、現金と同じように不動産を分割できます。
相続した不動産を売却して現金化してから分割する方法(換価分割)もありますが、不動産を手放したくない場合や、譲渡所得税や諸費用をかけたくない場合など、不動産を相続人で現物分割する場合にも役立ちます。
離婚によって財産分与するとき
離婚をして財産分与する場合、結婚後に築いた財産は1/2ずつ分け合うのが原則です。土地であれば1/2に分筆して所有する方法や、戸建てやマンションを共有名義にして1/2ずつ所有する方法があります。
しかし離婚の場合、売却して現金化してから分ける、もしくはどちらかが不動産の所有権を取得して、もう一方に不動産価格の半額を支払う方法をとるのが一般的です。
どちらの方法を選択する場合でも不動産鑑定による評価額を参考にすれば、スムーズに財産分与することができます。
個人間で不動産を売買するとき
個人間で不動産を売却する場合、不動産の取引価格を決めるために不動産鑑定が利用されます。
例えば親子間など、親族同士で不動産の売買をする場合、適正な価格と比較して極端に低い価格で売却すると、贈与税の対象となります。また売却価格が高すぎても、親族間でトラブルになることもあります。
不動産の間違った価格設定から生じるトラブルを未然に防ぐために、一般的に不動産鑑定が利用されます。
不動産鑑定方法は3つある
不動産鑑定方法には、大きく分けて3つの方法があります。不動産の種別や条件によって組み合わせて算出することにより、不動産の鑑定評価を行います。それぞれの鑑定方法について紹介します。
- 取引事例比較法
- 収益還元法
- 原価法
取引事例比較法
取引事例比較法とは、鑑定する不動産と似ている不動産の成約事例を集めて、立地や大きさなど不動産の特徴を比較して鑑定する方法です。また時期や条件によって補正を加えます。
成約事例が多ければ多いほど、より精度の高い鑑定が可能です。取引事例比較法は、中古住宅や中古マンションの評価に向いています。
収益還元法
収益還元法は、賃貸用不動産や事業用不動産の鑑定に用いられる方法です。その不動産を貸し出すことによって得られる収益から、評価価格を割り出す方法です。
収益還元法には比較的簡単に計算できる直接還元法と、複雑な計算が必要なDCF法があります。
1年間の収益を利回りで割るのが直接還元法、一定の投資期間で得られる収益と一定期間後の物件価格を予測し、それらを合計することによって求めるのがDCF法です。
原価法
原価法とは、不動産を再調達した場合の原価をもとに築年数に応じた減価修正を行って、不動産の価格を求める方法です。
おもに中古住宅の建物部分の価格を算出するときに用いられる方法です。
不動産鑑定を依頼する流れ
不動産鑑定を実際に依頼する流れを5つのステップで紹介します。
- 不動産鑑定を依頼する事務所を探す
- 複数の不動産鑑定士に見積もりを依頼する
- 不動産鑑定士に必要書類を提出する
- 不動産鑑定士による現地調査が行われる
- 不動産鑑定評価書を受け取る
ステップ1:不動産鑑定を依頼する事務所を探す
まずインターネットなどを利用して、不動産鑑定事務所を探します。基本的には、鑑定を依頼する不動産が所在するエリアに近い事務所がおすすめです。
その地域を熟知しているうえ、調査の際の移動時間が短いため、鑑定評価の算出にかかる時間が短くなり、その分費用が安くなる可能性があります。
依頼先に迷ったら、日本不動産鑑定士協会連合会のホームページから探す方法もあります。
ステップ2:複数の不動産鑑定士に見積もりを依頼する
ある程度依頼先の候補が見つかったら、鑑定について相談してみましょう。不動産鑑定にかかる費用は依頼先によって異なります。複数社に見積を依頼し、比較して依頼先を決めます。
ステップ3:不動産鑑定士に必要書類を提出する
依頼する不動産鑑定士が決まったら、必要書類を確認して提出します。一般的に必要になる書類は以下の通りです。※7
- 固定資産税・都市計画税納税通知書(自治体から4~6月ごろに送られてくる書類)もしくは固定資産評価証明書(役所で取得可能)
- 登記簿謄本もしくは全部事項証明書(法務局で取得可能)
- 公図(法務局で取得可能)
- 地図(不動産の場所を把握できるもの)
- 地積測量図または実測図(法務局で取得可能。もしくは土地の測量時に土地家屋調査士が作成したもの)
- 建物図面・各階平面図(法務局で取得可能)
- 管理規約・使用細則・購入時のパンフレット(マンションの場合)
- 購入時の売買契約書・重要事項説明書
- 賃貸借契約書・覚書など(賃貸物件の場合)
ステップ4:不動産鑑定士による現地調査が行われる
不動産鑑定士に依頼書兼承諾書を提出して、正式に鑑定を依頼します。その後不動産鑑定士による現地調査・評価作業が実施され、不動産鑑定評価が行われます。簡易鑑定の場合は、現地調査しないこともあります。
ステップ5:不動産鑑定評価書を受け取る
不動産鑑定士による不動産鑑定が完了したら、不動産鑑定評価書が納品され、不動産鑑定士による鑑定評価についての説明が行われます。請求書を受け取った後、支払い方法に基づき報酬を支払います。
不動産鑑定費用の相場
不動産鑑定を依頼する場合の費用は不動産の種別や規模、依頼する不動産鑑定士によって異なりますが、不動産鑑定1件につき土地は約20万円、一戸建ては約20〜25万円、マンションは約30万円が一般的です。※7
多くの不動産鑑定事務所では、国からの依頼を請け負うときの報酬基準である「基本鑑定報酬表」をもとに、独自の報酬基準を設定しています。
簡易鑑定、それとも一般鑑定なのか、また複雑な事案なのかによって費用は異なります。利用する目的を説明し、複数の不動産鑑定事務所の見積を比較してから、依頼することをおすすめします。
ちなみに簡易鑑定とは、正式な書類が不要で、不動産の価値を知りたいときなど費用を抑えたいときに適した鑑定です。簡易査定では不動産鑑定書ではなく、不動産調査報告書という形式になります。不動産鑑定書が対外的に必要な時ときは、一般鑑定を依頼しましょう。
不動産査定は基本無料で依頼できる
不動産会社へ土地や建物、マンションの査定を不動産会社へ依頼する場合、基本的に無料で依頼できます。
机上査定だけでなく、訪問査定を依頼した場合でも無料です。複数社に依頼して、平均値を見るようにしましょう。
なお不動産会社の仲介によって成約となった場合は、仲介手数料を支払います。
不動産鑑定と不動産査定の比較
不動産鑑定と不動産査定を比較すると、以下のようになります。
不動産鑑定 | 不動産査定 | |
不動産の評価を行う人 | 不動産鑑定士 | 宅地建物取引士など |
依頼する場合の費用 | 20~40万円 | 基本的に無料売買契約成立時に仲介手数料を支払う |
かかる期間 | 依頼してから2週間~1ヶ月程度 | 訪問査定から1週間程度 |
公的証明力 | ある | なし |
依頼するタイミング | 相続した財産を分割するとき離婚で財産分与するとき個人間で不動産を売買するとき | 不動産を売却するとき |
不動産の相場を調べる方法
不動産を売却するかどうか迷っているときなどは、まず自分で不動産の相場価格を調べてみましょう。
専門的な知識がなくても、公的機関が運営しているシステムやサイトを利用して成約事例を調べることによって、ある程度売却できる価格を想定することができます。
売却予想額と住宅ローンの残債額と比較して、売買代金で完済できるか確認してみましょう。
地価公示・地価調査・取引価格情報 | 土地総合情報システム | 国土交通省 (mlit.go.jp)
国土交通省が運営しているシステムです。宅地や土地建物、マンションの成約事例を、成約時期や調べたい地域を指定して調べることができます。
不動産取引情報提供サイト(マンション・戸建住宅の売買価格・相場・取引事例の情報公開サイト) (reins.or.jp)
国土交通大臣が指定する不動産流通機構(レインズ)が運営しているシステムです。マンションと戸建ての成約価格簡単に検索できます。
不動産鑑定と不動産査定を使い分けよう
不動産鑑定は公的証明力があるため、一般的には相続によって遺産分割するときや、離婚時の財産分与などに利用します。
不動産の売却をする場合で、売却想定価格を知りたいときは不動産査定で問題ありません。また売り出し価格を決める際に査定額を参考にしますが、基本的には売主が決めることができます。
不動産会社によって査定価格が異なることがあるため、不動産を売却するときは、複数社に依頼して平均値を見ることをおすすめします。
※1:一般社団法人 日本不動産研究所、不動産鑑定評価の基礎知識
※2:国土交通省、不動産鑑定士ってなに?資格者は何ができるの?
※3:不動産の鑑定評価に関する法律
※4:国土交通省、不動産鑑定士
※5:国土交通省、地価公示制度の概要
※6:財産分与で家を分ける方法は?税金はかかる?住宅ローンが残っている場合の注意点は?
※7:不動産鑑定とは?不動産査定との違いは?不動産鑑定の方法・費用・必要書類・流れを専門家が解説