土地の売却は、一般的に数百万円~数千万円という高額な取引になります。「誰に売却するか」「どの不動産会社に仲介を依頼するか」によって、最終的な売却額に数百万円以上の差が生まれることも珍しくありません。
つまり、土地の売却で失敗してしまうと、数百万円以上損をしてしまう可能性があります。土地の売却を検討している方は、実際の失敗事例や注意点を把握し、損をしないように気を付けましょう。
土地の売却活動前の失敗事例
土地を売却する前には、土地の調査や不動産市況を綿密に調査しなければなりません。
以下で、土地の売却活動前にあり得る失敗事例を紹介します。
調査不足で価格の相場をきちんと把握していなかった
土地の価値や周囲で売り出されている土地の価格など、市場調査を怠ると失敗してしまう可能性が高まります。価格の相場を知らないと、本来の価値より安く売ってしまうことがあるためです。
例えば、本来であれば3,000万円で売却できる土地であるにも関わらず、2,500万円で売り出してしまうと500万円の経済的損失となります。
逆に、土地を過大評価してしまうケースもあります。本来の価値よりも高い価格設定をすると、買い手がなかなか見つからず、価格が徐々に下がってしまうでしょう。
さらに、不適切な価格設定により売却期間が長引くと、その間の固定資産税や管理費などのコストが発生し続けます。「できるだけ高く売却したい」という気持ちは理解できるものの、相場と離れていると、買い手の関心を引けない点には留意すべきです。
地中埋設物の調査をしていなかった
地中埋設物とは、古い建物の残骸や廃材、給排水管などを指します。地中埋設物の調査をせずに売却すると、あとになって買主とトラブルになる可能性があるため、注意しましょう。
地中埋設物があると、建物を建てる際の基礎工事で支障が出る可能性があるためです。契約時に説明がないと、売主が瑕疵担保責任(契約不適合責任)を負います。
その結果、地中埋設物の撤去費用を負担したり損害賠償を請求されたりする可能性もあり得ます。せっかく土地を売却しても、経済的負担を強いられると、得られた売却額を大きく減少させる事態になりかねません。
また、契約前に地中埋設物の存在が確認された場合、売却手続きが白紙に戻る可能性もあります。あるいは、買い手から値引き交渉を持ちかけられ、想定より低い価格での売却を余儀なくされるかもしれません。
隣地との境界が不明確で買主が現れなかった
隣地との境界が不明確な土地は、なかなか買い手が現れない可能性があります。購入後に隣地境界線をめぐってトラブルに発展するリスクがあり、敬遠されてしまうためです。
なお、原則として売り手は土地の境界を明示する義務がありますが、買い手が了承すれば境界が不明確の土地でも売却できます。
ただし、購入を検討する買い手が現れたとしても、リスク分を考慮した値引き交渉が行われる可能性があります。購入後に、買い手が境界確認を行う費用や労力を織り込んだ価格にする必要があるため、本来の価格よりも低い価格での売却になりかねません。
さらに、境界が不明確な土地は担保価値の評価が難しいため、金融機関が融資を行わない可能性もあります。つまり、買い手が購入費用を用意できず、結果的に取引が制約しない可能性も考えられるのです。
価格の査定依頼を1社にしか依頼しなかった
基本的に、売買の仲介を行っている不動産会社は、無料で土地の価格を査定してくれます。「面倒だから」という理由で、価格査定を1社だけに依頼すると、結果的に失敗してしまう可能性があるため注意が必要です。
査定の依頼を1社だけに絞ると、土地の相場を正確に把握できません。1社だけの査定では、その会社の視点からの評価しか得られず、参考となるデータが圧倒的に不足しています。
また、不動産会社の中には高い査定結果を出して媒介契約につなげるケースもあります。契約後に値下げの提案を受ける可能性があり、この場合は当初の想定よりも低い価格での売却になってしまうでしょう。
不動産はまったく同じモノがない以上、不動産会社によって査定結果は異なります。より正確な市場相場を把握するためには、3〜5社程度の査定を比較することが欠かせません。
土地の売却活動中の失敗事例
実際に土地の売却活動を始めたあとも、いくつか注意すべきポイントがあります。
具体的な失敗事例について、見ていきましょう。
専任媒介契約・専属専任媒介契約で囲い込まれてしまった
土地の売却を進める際には、不動産会社に仲介を依頼するのが一般的です。不動産と媒介契約を締結するときは、以下の3種類から形態を選択します。
一般媒介契約 | 専任媒介契約 | 専属専任媒介契約 | |
複数社との契約 | 〇 | × | × |
指定流通機構(レインズ)への登録 | 任意 | 義務(7営業日以内) | 義務(5営業日以内) |
不動産会社の売主への業務報告 | 任意 | 義務2週間に1回以上 | 義務1週間に1回以上 |
自己発見取引(売主が自ら発見した相手との契約) | 〇 | 〇 | × 必ず媒介契約を結んだ不動産会社を介して契約する必要あり |
契約有効期間 | 法律上の制限なし | 3ヶ月以内 | 3ヶ月以内 |
※ 媒介契約とは?
中でも、1社に限定して依頼する専任媒介契約・専属専任媒介契約は、「囲い込み」のリスクがあります。囲い込みとは、不動産の売却を依頼された不動産会社が、自社で買主を見つけて双方から仲介手数料を得るために、意図的に他の不動産会社に物件情報を開示しない行為です。
不動産を囲い込まれてしまうと、スムーズに売却活動が進まない可能性があります。他社から問い合わせがあっても、「契約の予定がある」という偽りの情報を伝えるためです。
特に「専任媒介契約」と「専属専任媒介契約」は、1社だけが売却情報を扱うため、囲い込みが起こりやすいのです。さらに、1社のみが扱うことで市場競争が働かず、値下げ圧力がかかりやすくなります。
「このままでは売れないので値下げしましょう」という提案を受けやすく、不誠実な対応を取られるリスクも考えられるでしょう。囲い込みを避けるためには、一般媒介契約を選択するのが無難な選択肢といえます。
不動産需要が低いタイミングで売却してしまった
不動産は、買い手が多く現れやすい時期と現れにくい時期があります。買い手が現れにくく、不動産需要が低いタイミングで土地を売却すると、本来の価値よりも低い価格での売却となる事態になりかねません。
不動産に限らず、モノやサービスの価格は需給バランスで決まります。買い手が少ない時期は価格競争力が弱まるだけでなく、売却期間が長引くため、値引きを重ねる事態になりやすいのです。
また、需要が低い時期は購入を検討する人の数自体が少ないため、条件交渉における売主の立場が弱くなります。一般的に5月〜9月は引っ越しや住宅購入が一段落しており、不動産需要が低くなるため、この時期の売却は避けるとよいでしょう。
不動産会社の売却実績の確認が甘かった
「いつ、いくらで土地が売れるか」は、売却活動を行う不動産会社にかかっています。仲介を依頼する不動産会社の実績確認が不十分だと、結果的に低い価格での売却になってしまう事態になりかねません。
土地売却の経験が少ない不動産会社では、価格設定や販売戦略、買い手との交渉などで最適な判断ができない可能性があります。また、同じエリアや類似物件の売却実績がない場合、的確なアドバイスが期待できません。
実績の少ない不動産会社は、不動産会社との横のつながりや潜在的な買い手とのネットワークが限られています。効率的に買い手を見つけられない可能性があり、効果的な広告戦略を打てない可能性が考えられるでしょう。
日程的なゆとりがなく売り急いでしまった
時間的な余裕がないと、売り急いでしまうことがあります。何らかの事情があり売り急いでしまうと、買い手から足元を見られてしまい、本来の価格より低い金額での売却を余儀なくされる可能性があるためです。
「〇月までに売却を完了したい」という事情があると、買い手との条件交渉で不利な立場に立たされます。その結果、値引き交渉を受け入れざるを得ず、当初想定していた収益を大きく下回る結果になることも少なくありません。
また、十分な売却期間を確保できないと、よりよい条件で購入する買い手が現れる機会を逃してしまう可能性も考えられるでしょう。特に、納税資金を用意する目的で土地を売却する場合、売却のスケジュールに余裕がないケースがあるため注意が必要です。
土地の売却後の失敗事例
土地を売却したあとも、場合によっては損失につながる可能性があります。成約したら一段落しがちですが、失敗を避けるために注意すべき点を押さえておきましょう。
買主へ伝える情報に不足があり訴訟に発展した
不動産の取引では、売り手から買い手への重要事項説明が求められています。不動産は一般的に高額な取引になるため、安心して取引を行うためにも、重要事項説明は欠かせません。
重要事項説明が不足すると、瑕疵担保責任や債務不履行の問題が発生し、売買契約を解除されるリスクがあります。また、説明不足の内容によっては、裁判などの法的紛争に発展することもあります。
買い手側が被った損害(契約に関わる費用や機会損失など)の賠償責任も発生する可能性があるため、注意が必要です。
用途地域や建ぺい率、高さ制限など土地利用に関する法的制限については、必ず正確に伝える必要があります。また、上下水道・ガス・電気などのインフラ整備状況や引込条件についても、詳細に伝えなければなりません。
売買契約から決済・引き渡しまでに時間をかけすぎた
売買契約時に、決済・引き渡しの日程を決定します。契約から決済・引き渡しまでの期間が長すぎると、契約がキャンセルされたり固定資産税等の負担額が増えたりするリスクがあるため、注意が必要です。
なお、契約から決済・引き渡しまでの期間は、一般的に1ヶ月~3ヶ月程度です。特段の事情がない限り、契約後1ヶ月後程度を目安に、決済と引き渡しのスケジュールを組むとよいでしょう。
買主の融資が実行されず売買契約がなくなった
金融機関からの融資が得られなかった場合、契約を解除できる「融資特約」や「ローン特約」が付加されている場合があります。この場合、土地の売買契約が成立したあと、買い手の融資実行が得られずに破談となるケースはあり得ます。
例えば、買い手の返済能力や信用能力に問題があり、金融機関の審査基準を満たさない場合は融資が実行されません。また、金融機関が行う土地の担保評価が売買価格を大きく下回る場合、契約が破談となる可能性があります。
4.火災保険の解約を忘れていた
火災保険を解約すると、残りの契約期間に応じた解約返済金を受け取れる可能性があります。しかし、土地の売却後に火災保険の解約を忘れると解約返戻金を受け取れないため、結果的に余計な費用を負担してしまいます。
そのため、契約後に引き渡し日が確定したら、忘れないうちに解約手続きを済ませておきましょう。
土地売却後の確定申告時における失敗事例
土地を売却したときに利益が発生したとき(取得時よりも高く売却できたとき)は、翌年に確定申告をしなければなりません。
確定申告時によくある失敗を紹介します。納税額を適正化し、期限までに納税するためにも、失敗事例を反面教師にしていきましょう。
利用できる特例を申告せず必要以上に納税した
土地を売却した利益が発生したとき、納税額を軽減できる特例を利用できる可能性があります。例えば、「3,000万円特別控除」を活用すれば、譲渡所得から3,000万円を控除できます。
他にも、「軽減税率の特例」を活用すれば、通常よりも低い税率を適用できます。これらの特例を活用すれば、数百万円もの節税につながる可能性があるため、要件を確認するとよいでしょう。
ただし、いずれも要件は複雑で、初めて土地を売却する方にとっては判断が難しい可能性があります。必要に応じて、税金に強い不動産会社の担当者や税理士と相談することをおすすめします。
税金に関する特例は「知っているだけで得をする」という可能性があります。土地を売却するときは、「何か利用できる特例はないか」という視点を持って、情報収集してみてください。
損失が発生したにも関わらず損益通算を利用しなかった
土地を売却するときに損失が発生した(取得時よりも安く売却したとき)、「損益通算」を利用することで税金面での負担を軽減できる可能性があります。
他の土地や建物の譲渡所得から控除できたり、一定の要件を満たす場合は譲渡をした年の事業所得や給与所得などと損益通算したりすることが可能です。控除しきれない損失がある場合は、翌年以後3年間にわたり繰り越して控除することができるため、節税手段として活用できるでしょう。
損益通算の仕組みを理解していれば、最終的に数十万円~数百万円程度の節税効果を得られる可能性があります。特例の活用と同様に、不動産会社の担当者や税理士と相談するとよいでしょう。
納税資金を用意できなかった
税金は、原則として現金で納付しなければなりません。所得税に関しては、売却年の翌年3月15日までに申告と納付をしなければならず、計画的に納税資金を用意する必要があります。
売却代金を受け取った後、税金の支払いを考慮せずに他の用途(住宅購入や借金返済など)で使い込んでしまうと、納税資金が不足してしまうリスクがあります。場合によっては納税額が数百万円になる可能性もあるため、売却時に納税額を把握しておく必要があります。
納付期限までに納税できないと延滞税が課され、必要以上の経済的負担が生じます。長期間納税しない場合、最終的には財産の差し押さえなどの強制執行が行われる可能性もあるため、注意が必要です。
土地の売却で失敗を避けるコツ
土地を売却するとき、できるだけ希望通りの価格で、希望の時期までに手続きを完了させたいと考えるのが一般的です。
以下で、土地の売却で失敗を避けるためのコツを解説します
査定の依頼は最低でも3社から取得する
土地の価格査定を依頼するときは、最低でも3社以上から見積もりを取得しましょう。3社から見積もりを取得して、それぞれの金額を比較検討することで、土地の相場観を把握できます。これにより、高すぎず安すぎない、適切な価格で販売できます。
不動産会社によって、査定額が大きく異なることがあります。1社だけの査定では価格が適正かどうか判断できないため、適正な価格で売り出し、スムーズに買い手を見つけるためにも複数の査定を得ましょう。
なお、査定結果を得たらそれぞれの不動産会社に対して、査定の根拠を出してもらいましょう。売り手が納得できる根拠を示してくれる不動産会社は信頼でき、また明確な販売戦略や営業力を有していると考えられます。
自分自身でも売却価格の相場を調査する
売り出し価格の判断を不動産会社にすべて任せるのではなく、売り手自身でも相場を調査しましょう。売り手自身でも調査をすることで、客観的な判断基準を持つことができ、不動産会社が提示した査定額が適正かどうか判断できます。
また、相場を把握していれば、買主や不動産会社との価格交渉で不利な条件に応じずに済みます。相場を知っているだけで失敗する可能性を大きく低減できるため、不動産ポータルサイトを活用して情報を収集してみてください。
公的なデータとしては、国土交通省の地価公示や都道府県地価調査、法務局で閲覧できる「取引事例」や「土地総合情報システム」の活用が挙げられます。
自分の土地と似た条件(面積や形状など)の土地がいくらで売り出されているのか、過去にいくらで成約した事例があるのかを調査しましょう。
実績が豊富で信頼できる不動産会社に媒介を依頼する
媒介契約を締結する不動産会社に、土地仲介の実績があるかを確認しましょう。また、査定を通じて担当者とコミュニケーションをとる中で、信頼できる不動産会社かどうかを調査することも大切です。
土地仲介の実績が豊富な不動産会社は、専門知識と経験を活かして、適正な価格設定をサポートしてくれます。また、多くの買い手にアプローチする情報網を有しており、効率よく売却活動を進めてくれます。
経験豊富な営業担当者は、買い手との交渉も上手く進めてくれるでしょう。その結果、売り手の希望に近い条件で取引をまとめてくれる期待が持てます。
売却しようとしている土地が属するエリアでの取引実績があるか、実際に利用した人からの評判はよいかを確認すれば、信頼できるかどうか判断できるでしょう。
土地が法的問題を抱えていないか調査しておく
隣地との境界が明確になっているか、地中埋設物がないかなど、土地が法的問題を抱えていないか確認しましょう。法的問題がない土地であれば、買い手が安心して購入できるため、スムーズな取引につながります。
また、事前にきちんと調査して法的問題を解消しておけば、適正な価格での売却が可能になります。つまり、売却後のトラブル・訴訟リスクを回避するだけでなく、本来の価格で取引をするためにも事前の調査は重要です。
なお、具体的に確認しておくべきポイントは以下のとおりです。
- 登記簿上の所有者名義が正確か、共有者がいないか
- 隣地との境界が明確に定められているか
- 土地に抵当権が設定されていないか
- 開発や建築に関する制限はないか
- 接道状況や通行権に問題はないか
- 税金の滞納がないか
- 地中埋設物がないか
必要に応じて、土地家屋調査士に依頼して境界を明確にし、地中埋設物調査を行っている専門の会社に埋設物の有無を調査してもらいましょう。
売却スケジュールには余裕を持っておく
売却スケジュールに余裕がないと、買い手に足元を見られてしまう可能性があります。そのため、売却スケジュールには余裕を持っておき、値引き交渉に対して柔軟に応じられるように備えましょう。
土地の売却は、一般的に6ヶ月~1年間くらいの期間を見積もる必要があります。場合によっては、1年以上かかるケースもあるため、ゆとりもあるスケジュールは欠かせません。
何らかの事情で「早く売らなければ」という焦りがあると、適正価格より安く売却してしまいかねません。冷静に価格交渉したり、よりよい条件で購入してくれる買い手が現れるのを待ったりするためにも、余裕を持ったスケジュール作りを意識してみてください。
事前に納税見込み額を把握しておく
取得時よりも高い価格で売却できそうなときは、事前に納税見込み額を把握しておきましょう。売却した翌年に所得税と住民税を納める必要があるため、資金計画を立てるうえでも、納税見込み額の把握は欠かせません。
最終的に手元に残る実質的な金額は、売却金額から諸経費や税金を差し引いた金額です。次の住宅購入や新生活の準備を進めるときは、実際の手取り額をベースに考える必要があります。
なお、納税額を把握するためには、取得費(土地購入価格や土地の取得に際して支払った土地の測量費など)や譲渡費用(仲介手数料や登記費用など)を把握する必要があります。さらに、3,000万円特別控除や軽減税率も加味することで、より詳細な納税額を把握できるでしょう。
必要に応じて、不動産会社の担当者やファイナンシャルプランナー、税理士へ相談しましょう。
まとめ
土地を売却するとき、売り出し価格の判断や売却スケジュールの設定で失敗すると、大きな損失につながります。失敗すると数百万円の経済的損失にもつながりかねないため、事前の準備は欠かせません。
具体的な失敗事例としては、相場調査が不十分だったり、土地が法的な問題を抱えていたりするケースがあります。また、不動産会社による囲い込みや、売り手の売り急ぎを防ぐための対策も欠かせません。
土地の売却で失敗しないためにも、複数社から査定を取得することや、自分でも相場を調査することが大切です。土地売却の実績が豊富な不動産会社を選び、余裕のあるスケジュールを組めば、失敗するリスクを大きく低減できるでしょう。