マンション買い替えに際して、売却と購入を同時に行うのが理想ですが、タイミングを合わせるのは至難の業です。
通常は自宅マンションの売却を先行するか、新居の購入を先行することになります。しかし売り先行か、買い先行にするか迷う方が多いのではないでしょうか。
どちらが正解ということはありませんが、向き不向きはあります。あらかじめそれぞれのパターンについて理解しておきましょう。
この記事では、売り先行と買い先行それぞれのメリット・デメリットや、買い替え時にかかる税金や使える特例など、マンション買い替えに時に必要な情報を紹介します。
マンション買い替えは何から始める?
まずは、自宅マンションの査定を不動産会社へ依頼することから始めます。
自宅マンションの売却想定価格が分からなければ、資金計画を立てることはできません。通常無料で査定依頼できますので、複数社に査定依頼して平均値を把握しましょう。
なお最初は机上査定(簡易査定)でも問題ありません。ただし、実際に売却する場合は訪問査定が必要になります。
マンションを買い替える方法は2種類
マンションの買い替えをする場合、自宅マンションを先に売ることを「売り先行」といい、新居を先に購入することを「買い先行」といいます。
住宅ローンの残債額や希望を考慮して、どちらにするか検討します。次に売り先行と買い先行のメリットとデメリットを紹介します。
マンション買い替え時の売り先行とは?
自宅マンションの売却を先行する方法です。まず複数の不動産会社に訪問査定を依頼し、査定額の平均値を確認しましょう。
売却想定価格が分かったら、その代金で住宅ローンの残債を返済できるか計算します。返済できる場合は、買主へ所有権移転と同時に抵当権を抹消できるので、問題なく売却できます。
もし残債額が売却想定価格を上回る場合は、自己資金を充当するか、住み替えローンを借入できるか金融機関に相談してみましょう。
売り先行の場合は売却が決まった時点で、購入物件探しも始めます。自宅の引渡し日と新居の引渡し日の期間が短ければ、仮住まいの期間を短くできます。
売り先行のメリット
自宅の売却価格が確定してから新居を購入することができるため、堅実な資金計画を立てることができるのがメリットです。無理のない住み替えをしたい方におすすめです。
自宅売却で住宅ローンを完済できれば、新居購入時に住宅ローンを借入できます。住み替えローンに比べて金利が安いため、金利を余分に払う必要もありません。
売り先行のデメリット
先に自宅マンションを売却するため、基本的には仮住まいが必要になります。仮住まいを借りるのに敷金や礼金、仲介手数料がかかるほか、仮住まいが長くなればなるほど賃料がかかります。つまり引越しが2回になり、費用と労力が2倍かかります。
新居探しが上手く進まない場合、焦ってしまう可能性があるので、売り先行といってもある程度目星をつけておく必要があるでしょう。
マンション買い替え時の買い先行とは?
新居を先に購入し、引越しを終えてから自宅マンションを売却する方法です。自宅マンションの住宅ローンが完済しているもしくは、残債が少ない場合は、買い先行も可能です。
自宅マンションの住宅ローンを完済していれば、新居購入に住宅ローンを利用できます。残債がある場合は、住み替えローンを検討しましょう。
買い先行のメリット
仮住まいが不要なのがメリットです。また自宅マンションを空き家の状態で売り出すことができるため、内覧に立ち会う必要がありません。(不動産会社に鍵を預ける場合)
また新居を探す際もタイミングを気にする必要がないため、時間をかけてじっくり物件探しをすることができます。
買い先行のデメリット
自宅がいくらで売却できるか分からない状態で、新居を購入することになります。不動産会社に査定を依頼していたとしても、購入までに時間がかかった場合、相場が変化する可能性があります。ある程度余裕を持った資金計画が必要です。
自宅マンションに残債がある場合は、住み替えローンを利用する必要があります。しかし住み替えローンは返済比率が高くなる傾向があるため、誰もが借りられるわけではありません。売却想定価格よりも自宅の残債が上回る場合は、金融機関への相談を早めに行いましょう。
売りと買い同時は可能?
物理的には可能ですが、自宅マンションの買主と、新居の売主のスケジュールが一致しないと、同日に決済できません。引渡し日について条件を設けてしまうと売却が難しくなったり、希望額で売却できなかったりする可能性があります。「可能であれば同日にする」とぐらいに思っていた方がよいでしょう。
どうしても同日にしたい場合は、自宅を仲介ではなく、買取によって売却すること検討しましょう。
住宅ローンの返済が残っていても売却できる?
自宅マンションに住宅ローンの残債が残っていても、売却は可能です。実際の流れは以下の通りです。通常売主・買主・司法書士・不動産会社の担当者が立会いのもと決済を行います。
- 買主から売買代金受領
- 売買代金で住宅ローンを完済
- 金融機関から抹消手続きに必要な書類を受け取る
- 司法書士へ抵当権抹消と所有権移転登記を委任する
- 決済日に自宅マンション引き渡し
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マンション買い替えの資金計画
自宅マンションの買替えは、おもに売買代金で住宅ローンを返済できるパターンと、できないパターンの2通りです。それぞれの流れを紹介します。
自宅マンションの売買代金で住宅ローンを返済できるケース
自宅マンションの売買代金で、住宅ローンを返済できるパターンは、比較的スムーズです。決済日が決定したら、その日に完済する場合の住宅ローンの残額を金融機関に算出してもらっておきます。
決済日に買主から受領した売買代金で支払うことによって、住宅ローンは完済します。
自宅マンションの売買代金で住宅ローンを返済できないケース
自宅マンションの売却価格によっては、住宅ローンが返済できないこともあります。その場合は金融機関が住宅ローンとは別に用意している住み替えローン(買い替えローン)の利用を検討します。
しかしすべての金融機関が扱っているわけではありません。また返済比率が高くなることが多いため、審査が厳しい傾向にあります。
収入や年齢、勤務先によっては、住み替えローンが利用できないこともあります。
まずは資金計画を立てる段階で、金融機関に相談するようにしましょう。
マンション買い替え時にかかる税金とは?
マンション売却には、税金がかかります。この章では、マンション買い替え時に発生する可能性がある5つの税金と、その計算方法を紹介します。
- 印紙税
- 登録免許税
- 譲渡所得税(所得税・住民税)
- 不動産取得税
- 消費税
印紙税
売買契約書は印紙税が課税される文書です。売却時と購入時、それぞれ売買契約締結時に印紙税(印紙代)がかかります。
なお2024年3月31日までは印紙税の軽減措置があります。従来の印紙税額と軽減措置適用後の印紙税額は以下の表を参考にしてください。
記載された契約金額 | 税額 | 軽減後の税額(2027年3月31日まで) |
10万円超50万円以下 | 400円 | 200円 |
50万円超100万円以下 | 1千円 | 500円 |
100万円超500万円以下 | 2千円 | 1千円 |
500万円超1,000万円以下 | 1万円 | 5千円 |
1,000万円超5,000万円以下 | 2万円 | 1万円 |
5,000万円超1億円以下 | 6万円 | 3万円 |
1億円超5億円以下 | 10万円 | 6万円 |
登録免許税
登録免許税は登記をする時にかかる税金です。売却時と購入時については以下の通りです。
売却時
抵当権抹消登記や住所変更登記が必要な場合は、所有権移転登記を代行してもらう司法書士へそれぞれ依頼します。
その場合、登録免許税は1個の不動産×1,000円で計算できます。例えば土地が3筆(3つの地番にまたがっているケース)は3×1,000円と計算します。建物も1個に対して1,000円かかるため、合計で4,000円です。
なお。所有権を移転する前に自分で変更登記をすることができますが、抵当権抹消と所有権移転登記を同日に依頼する場合は、司法書士へ依頼します。
登録免許税は、登記を依頼する司法書士へ報酬とともに支払います。司法書士への報酬の相場は、1~2万円です。実際には依頼する司法書士へ確認しましょう。※1
購入時
不動産を購入する際は、所有権移転登記にかかる費用と、抵当権を設定する登記費用がかかります。なお土地の所有権移転と中古住宅の所有権移転には、それぞれ軽減措置(2024年3月31日までの登記)があります。税率は以下の通りで、不動産の評価額に対して乗じて算出します。
ちなみに不動産の評価額は、4月ごろ送られてくる固定資産税課税明細書、役所や都税事務所(東京23区の場合)で取得できる固定資産評価証明書で確認できるほか、固定資産課税台帳の取得(役所)でも確認できます。
従来の税率 | 軽減後の税率 | |
土地の所有権移転登記 | 2% | 1.5% |
中古住宅の所有権移転登記 | 2% | 0.3% |
新築住宅の保存登記 | 0.4% | 0.15% |
住宅ローンの抵当権設定登記 | 0.4% | 0.1% |
譲渡所得税(所得税・住民税)
自宅マンションを売却して、利益が発生した場合には譲渡所得税がかかります。なお取得や譲渡にかかった費用は差し引くことができ、マイホームであれば特別控除も利用できます。計算して譲渡所得がなければ、譲渡所得税もかかりません。
なお譲渡所得税を計算する式は、以下の通りです。
不動産売却による利益-(取得費+譲渡費用)-特別控除=課税譲渡所得金額
課税譲渡所得金額×所有期間に応じた税率=譲渡所得税額
譲渡所得税の税率は、不動産の所有期間に応じて異なります。厳密には住民税は譲渡所得税ではありませんが、一緒に計算しておくと安心です。所得税は翌年の確定申告で納税しますが、住民税は給与所得者であれば給与から天引きされます。なお住民税について申告は不要です。
所得税 | 住民税 | 復興特別所得税 | 合計 | |
長期譲渡所得 | 15% | 5% | 0.315%(15%×2.1%) | 20.315% |
短期譲渡所得 | 30% | 9% | 0.63%(30%×2.1%) | 39.63% |
※ 国税庁、短期譲渡所得の税額の計算
※ 2037年までは復興特別所得税として、各年分の基準所得税額の2.1%を所得税と合わせて申告し、納付することになります。
不動産取得税
不動産を取得したときにかかる税金です。新居購入後しばらくしてから自治体から納税通知書が届くため、忘れないように注意しましょう。以下の計算式で算出します。※2
・不動産取得税=不動産の評価額×4%(2024年3月31日までは軽減税率3%)
なお2024年3月31日までに宅地および宅地として評価された土地は、税額を算出するときの評価額が1/2になります。※3
・不動産取得税(土地)=不動産の評価額×1/2×3%
他にも土地を取得して3年以内に建物を新築する場合や建売住宅や新築マンションを購入した場合は、建物の評価額より1,200万円控除できる制度があります。また土地についても①と②のいずれか大きい方の額を減額することができます。※4
・不動産取得税(建物)=建物の評価額-1,200万円×3%
・不動産取得税(土地)=不動産の評価額×1/2×3%-減額※
※減額については①と②の大きい額を減額
①45,000円
②(不動産の評価額×1/2÷地積)×住宅の床面積×2倍(上限200㎡)×住宅の持ち分×3%
中古住宅とその敷地を取得した場合にも、軽減措置があります。新築された時期によって異なり、計算式と控除額は以下の通りです。※5
・不動産取得税(建物)=(不動産の評価額-控除額)×3%
・不動産取得税(土地)=不動産の評価額×1/2×3%-減額※
新築された年月日 | 控除額 |
1981年7月1日~1985年6月30日 | 420万円 |
1985年7月1日~1989年3月31日 | 450万円 |
1989年4月1日~1997年3月31日 | 1,000万円 |
1997年4月1日以後 | 1,200万円 |
※減額については①と②の大きい額を減額
①45,000円
②(不動産の評価額×1/2÷地積)×住宅の床面積×2倍(上限200㎡)×住宅の持ち分×3%
ちなみに不動産取得税は、不動産取得から30日以内に登記した場合、原則申告は不要です。しかし軽減措置を受ける場合は、都道府県の税事務所への申告が必要なので注意しましょう。
消費税
不動産会社へ仲介手数料を支払いますが、その仲介手数料に消費税がかかります。マンションを売却するときと、新居を購入するときの2回消費税がかかります。
仲介手数料は売買価格によって速算式が異なります。
不動産売買価格 | 仲介手数料の上限額 |
400万円超 | 物件価格×3%+6万円+消費税 |
200万円超400万円以下 | 物件価格×4%+2万円+消費税 |
200万円以下 | 物件価格×5%+消費税 |
マンション買い替え時に利用できる控除や特例とは?
マンションを買い替えるときに利用できる、控除や特例を5つ紹介します。いずれも控除や特例を利用する場合は、翌年に確定申告によって申告する必要があります。
- 3,000万円の特別控除
- 居住用財産の買い替え特例
- マイホームを売ったときの軽減税率の特例
- マイホームを買い替えた場合の譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例
- 住宅ローン控除
3,000万円の特別控除
マイホームを売却して利益が発生したときは、譲渡所得税がかかります。しかし一定の要件を満たせば、マイホームの所有期間に関係なく3,000万円まで控除できる特例です。計算式は以下の通りです。※6
不動産売却による利益-(取得費+譲渡費用)-3,000万円の特別控除=課税譲渡所得金額
土地のみを売るときは適用になりませんが、建物を解体した日から1年以内に売買契約を締結し、住まなくなってから3年を経過する年の12月31日までに売却したときは適用になります。
居住用財産の買い替え特例
2023年12月31日までにマイホームを売却し、新居を購入した場合で一定の要件を満たすときは、譲渡益に対する課税を将来に繰り延べできます。ただし譲渡益が非課税になるわけではありません。※7
3,000万円控除を利用していないことや、売買代金が1億円以下であることなどが要件になります。
マイホームを売ったときの軽減税率の特例
マイホームを売却して、一定の要件を満たす場合、長期譲渡所得の税額をさらに低い税率を適用することができます。※8
売却した年の1月1日に所有期間が10年を超えていることや、3,000万円控除を利用していないことなどが要件になります。
課税長期譲渡所得金額 | 税額 |
6,000万円以下 | 課税長期譲渡所得金額×10% |
6,000万円超 | 課税長期譲渡所得金額6,000万円を超える部分は15% |
マイホームを買い替えた場合の譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例
2023年12月31日までにマイホームを売却して新居を買い替えた場合、自宅の譲渡損失が発生するときは、その年の給与所得など他の所得と損益通算できます。またその年で控除しきれなかった場合は、翌年以降3年間繰越できます。※9
なお親子間売買や夫婦間の売買は適用できず、借入期間が10年以上の住宅ローンがある場合に限るなど一定の要件があります。
住宅ローン控除
正式名称は「住宅借入金等特別控除」ですが、一般的に住宅ローン控除と呼ばれています。年末の12月31日の住宅ローン残高に応じて、所得税や住民税が還付(控除)される制度です。※10
2022年度の改正で控除率は1%から0.7%になり、所得要件は3,000万円以下から2,000万円以下になりました。
住宅ローンの借入期間が10年以上、購入する住宅の床面積が原則50㎡以上であること所得1000万円以下の方は40m2以上(令和5年までに建築確認を受ける新築住宅の場合)であることなどが要件になります。
住宅ローン控除を受けるためには、入居した翌年に確定申告する必要があるので、忘れないように注意しましょう。
マンション買い替えはタイミングと不動産会社選びが重要
マンションの買い替えは、そのタイミングや資金計画が難しいため、ゆとりをもったスケジュールと無理のない予算を立てましょう。
また不動産会社選びも重要です。買い替えをサポートした実績が豊富な担当者に買い替えを依頼しましょう。
売却だけや購入だけでなく、その両方を依頼できる不動産会社へ相談することをおすすめします。スケジュール管理や資金計画をすべて相談することができるので、スムーズに進めることができます。
※1:法務局、抵当権の抹消登記に必要な書類と登録免許税
※2:総務省、不動産取得税
※3:2 不動産取得税の計算方法
※4:1 住宅を新築する場合 (土地を取得してから3年以内)
※5:3 中古住宅とその敷地を取得した場合 (個人が自己の居住の用に供するもの)
※6:国税庁、No.3302 マイホームを売ったときの特例
※7:国税庁、No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例
※8:国税庁、No.3370 マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき
※9:国税庁、No.1212 一般住宅の新築等をした場合(住宅借入金等特別控除)