不動産の売却では、インスペクションをおこなうケースがあります。インスペクションとは、専門家が建物の状態を調査することです。
この記事では、不動産のインスペクションについて、以下のポイントを解説します。
- 対象となる不動産
- 調査内容
- メリット・デメリット
- 流れ・期間
インスペクション業者の選び方についてもまとめているので、不動産の売却を考えている人は参考にしてください。
不動産のインスペクションとは?
不動産のインスペクションとは、住宅の建物部分の状態を、専門家が客観的に調査することです。※1
不動産取引のルールを定める宅建業法では「建物状況調査」と呼びます。
インスペクションをおこなうのは、中古住宅の売買時だけではありません。
新築住宅の購入やリフォームの際に、インスペクションをおこなうことも可能です。
中古住宅のインスペクションにおいては、国土交通省が2013年にガイドラインを定めています。
はじめに、不動産におけるインスペクションの基礎知識として、以下の4つを見ていきましょう。
- 義務なのか
- どのような不動産が対象となるのか
- 誰が調査するのか
- どのような調査をおこなうのか
インスペクションは義務なの?
インスペクションは、不動産の売主・買主どちらでも依頼できますが、義務ではありません。
ただ宅建業者(不動産会社)には、2018年におこなわれた宅建業法の改正によって、以下の3点が義務付けられました。
- 不動産の売主・買主との媒介契約時に、インスペクションの説明とあっせんをおこなうこと
- インスペクションの結果を重要事項として、買主に説明すること
- 建物の状況について売主・買主が確認したことを、書面に記載して交付すること
のちほど解説するメリット・デメリットも踏まえて、インスペクションを実施するか否かを、不動産会社と相談しましょう。
インスペクションの対象となる不動産は?
インスペクションは、以下の条件を満たす不動産が対象です。
- 人が住むことを目的としていること
- 建てられてから1年を経過していること
店舗や事務所として使われる不動産は、インスペクションの対象外となります。
また、取り壊すことが決まっている空き家も、対象外です。
誰が調査するの?
インスペクションをおこなうのは、国土交通省による講習を受けた「既存住宅状況調査技術者」です。※2
既存住宅状況調査技術者になるためには、建築士の資格を保有していなければなりません。
インスペクションのなかには、宅建業法の建物状況調査に該当しないものもあります。
これを「ホームインスペクション」といい、既存住宅状況調査技術者ではない「ホームインスペクター」が調査をおこなうケースもあります。
ホームインスペクターは「住宅診断士」とも呼ばれる民間の資格で、建築士でなくても取得が可能です。
どのような調査をおこなうの?
不動産のインスペクションでは、建物における「基礎部分・柱・壁・床下・配管・設備・門・塀・屋根」などを調査します。
以下について確認し、問題がある箇所を挙げていくのです。
- 不具合や欠陥がないか
- どのくらい劣化しているか
- 安全に暮らすための耐久性があるか
- 雨漏りや水漏れの可能性はないか
基本的に目視や触診、レーザーによって調査するため、建物の一部を切り開くなどの工事はおこないません。
インスペクションのメリット
インスペクションには、以下のようなメリットがあります。
- 不動産を好条件で売却できる可能性がある
- トラブルを防ぐことができる
- 既存住宅売買瑕疵保険に入れる可能性がある
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
不動産を好条件で売却できる可能性がある
インスペクションをおこなうと、不動産を好条件で売却できる可能性があります。
買主に「しっかりと調査をおこなっている」という良い印象を与えられるためです。
安心して不動産の購入に踏み切ってもらえるでしょう。
また不動産の状態を把握できていると、購入後にかかるメンテナンス費用の想定がしやすいというメリットもあります。
インスペクションをおこなっていない不動産との差別化を図れるため、買主が早く見つかったり、高い金額で売却できたりする可能性が高まります。
トラブルを防ぐことができる
トラブルを防ぐことができる点も、インスペクションをおこなうメリットのひとつです。
不動産売却で気をつけたいトラブルとしては「契約不適合責任」が挙げられます。
契約不適合責任とは、売却した不動産が契約内容に合っていない場合、買主から責任を問われるというものです。
売却時に気付かなかった瑕疵においても、責任を負わなければなりません。
瑕疵とは、雨漏り・水漏れ・シロアリ被害・設備故障のような、欠陥や不具合のことです。
契約不適合責任では、買主から補修や損害賠償を請求される可能性があります。
インスペクションをおこなえば、買主に建物の状態を納得してもらったうえで契約を結べるため、トラブルを減らすことができるのです。
既存住宅売買瑕疵保険に入れる可能性がある
インスペクションは「既存住宅売買瑕疵保険」に入るための条件のひとつです。
売却後の不動産に瑕疵が見つかった場合に、既存住宅売買瑕疵保険を付けていれば、補修費用をまかなってもらえます。
売主・買主の双方に、安心感をもたらす保険です。
既存住宅売買瑕疵保険は、国土交通大臣が指定した保険会社が提供しています。
ただ保証の範囲は、構造や防水に関わる部分にかぎられるため、すべての瑕疵をまかなえるわけではありません。
保険期間は、最長で5年間です。
既存住宅売買瑕疵保険に入るためには、インスペクションの実施以外にも「新耐震基準を満たしていること」などの条件をクリアする必要があります。
インスペクションのデメリット
インスペクションのデメリットは、以下の2点です。
- 費用がかかる
- 補修が必要になるケースがある
詳しく解説するので、デメリットも頭に入れたうえで、インスペクションを検討しましょう。
費用がかかる
インスペクションには、費用がかかるというデメリットがあります。
費用の目安は、一戸建てで5万円〜7万円、マンションで4万円〜5万円ほど。※3
一戸建てのほうが検査する箇所が多いため、費用が高くなりやすいです。
オプションの検査をおこなった場合、追加料金がかかることもあります。
床下・屋根裏の検査や耐震診断は、オプションになりやすいです。
インスペクションの補助金が出る自治体もあるため、売却する不動産を管轄する自治体の取り組みを調べておきましょう。
たとえば長野県では過去に、インスペクション費用の半額(上限5万円)を補助してもらえる事業がおこなわれていました。
不動産の売却には、税金や仲介手数料などの諸費用がかかるため、抑えられる費用は抑えておくことが大切です。
補修が必要になるケースがある
インスペクションによって、建物の不具合や欠陥といった瑕疵が見つかった場合、補修が必要になるケースがあります。
売却する前に瑕疵が見つかる点は、トラブルを防止できることを考えるとメリットです。
しかし、補修費用で支出が増える点はデメリットと言えるでしょう。
不動産の瑕疵を買主に説明し、納得のうえ契約してもらえる場合は、補修せずに売却することも可能です。
ただ、不動産に瑕疵があると、それを理由に売却金額の値引きを持ちかけられるケースがあります。
インスペクションをおこなうべきタイミング
不動産の売主によるインスペクションは、基本的に不動産会社と媒介契約を結んでから、売却活動を始めるまでの間におこないます。
不動産売却における全体の流れで見ると、以下の3〜4の間です。
- 売却について不動産会社に相談する
- 査定をおこなう
- 不動産会社と媒介契約を結ぶ
- 売却活動を始める
- 買主と売買契約を結ぶ
- 不動産を引き渡す
不動産の売却を決めたら、まずはインスペクションを実施するか否かも含めて、不動産会社に相談しましょう。
媒介契約時には、不動産会社からインスペクションの説明や、業者のあっせんを受けられます。
インスペクション自体の流れや、必要な期間について、以下に詳しく解説していきます。
インスペクションの流れ
インスペクションを実施する場合の一般的な流れは、以下のとおりです。
- 不動産会社に業者を紹介してもらう
- 業者を決めて依頼する
- 必要書類を提出する
- 建物の状況を調査してもらう
- 報告書を受け取る
- 料金を支払う
インスペクション業者は、自分で手配することもできます。
業者によって費用や調査内容が異なるため、複数社を比較したうえで、依頼先を決めましょう。
建物の状況を調査する前には、図面や登記事項証明書といった書類の提出が必要です。
インスペクションの料金は、調査の前に支払うケースもあります。
インスペクションにかかる期間
業者にインスペクションを依頼してから、調査をおこなうまでは1週間ほどかかります。※4
インスペクションの調査自体は、2時間〜3時間ほどです。
建物の大きさや調査項目によっては、4時間〜5時間ほどかかることもあります。
報告書は、調査から1週間ほどで受け取れます。
上記を踏まえて、インスペクションは全体で2週間ほどかかると考えておきましょう。
インスペクションの依頼先の選び方
先ほど「インスペクション業者は、不動産会社からの紹介ではなく自分でも手配できる」という旨を解説しました。
インスペクションの依頼先は、以下のポイントを押さえたうえで選びましょう。
- 既存住宅売買瑕疵保険の加入条件を満たすこと
- 担当が既存住宅状況調査技術者であること
- 類似不動産の調査実績があること
既存住宅売買瑕疵保険の加入条件を満たさないインスペクションは、実施するメリットが小さくなってしまいます。
担当が既存住宅状況調査技術者であれば、建築士の資格も保有しているため、建物に関する知識が豊富です。
また、一戸建てのインスペクションをおこなう場合は、同じような一戸建ての調査を得意とする業者を選びましょう。
実績や調査内容などを比較し、信頼できる依頼先を選んでください。
まとめ
不動産のインスペクションとは、住宅の建物部分の状態を、専門家が客観的に調査することです。
宅建業法では「建物状況調査」と呼び、建てられてから1年を経過した住宅が対象となります。
不動産の売主には、インスペクションの義務はありません。
媒介契約を結ぶ不動産会社には、インスペクションの説明やあっせんなどの義務があります。
インスペクションの大きなメリットは、不動産の瑕疵に関するトラブルを防げるという点です。不動産を高く・早く売却できる可能性も高まります。
デメリットは、費用がかかる点です。インスペクションの結果を受けて補修をおこなう場合は、さらに支出が増えてしまいます。
インスペクションは、不動産会社と媒介契約を結んでから、売却活動を始めるまでの間におこないます。
依頼から調査結果の受け取りまでには、2週間ほどかかるケースが多いため、スケジュールに余裕を持って動くことが大切です。
費用をかけてインスペクションをおこなうのであれば、既存住宅売買瑕疵保険の加入条件を満たす調査を実施している業者に依頼しましょう。
※1:建物状況調査(インスペクション)
※2:一般社団法人 日本建築士事務所協会連合会
※3:ホームインスペクションにかかる費用とは?物件の種類ごとに解説!
※4:ホームインスペクション(住宅診断)は入居後もできる!住宅診断のベストタイミング