中古の不動産を取引するときに、専門家が住宅の調査をするインスペクションをおこなうケースがあります。
物件の売却を進めている際「インスペクションは必要なのだろうか」「メリットを知りたい」と考える方もいるでしょう。
インスペクションはトラブルを防ぎやすくできる一方、費用がかかる、補修が必要になるケースがあるなどのデメリットもあります。
本記事では、インスペクションの調査方法や実施するメリット、業者を選ぶ際に意識したいポイントなどを解説します。
所有している不動産の売却で、インスペクションを実施しようか悩んでいる方は、ぜひ参考にしてみてください。
不動産のインスペクションとは?
インスペクションとは本来、調査や検査、視察などを表す英単語です。
不動産におけるインスペクションは、中古物件の住宅診断を指し、売買契約前におこなわれます。
中古物件でインスペクションをおこなう意味や調査方法などを詳しく解説します。
インスペクションをおこなう意味
不動産のインスペクションは、中古物件の状態を調査して、修繕の必要な箇所やタイミング、かかる費用などのアドバイスを受けられます。
中古物件の状態や欠陥などを事前に把握できるため、売主と買主の不動産トラブルを未然に防げ、安心して取引がおこなえます。
また、インスペクションで住宅の状態を客観的に示せて、適正な価格で取引してもらいやすく、買主との交渉がスムーズに進むのも利点でしょう。
インスペクションをおこなうことは、購入後のトラブル防止や売却時の価格交渉、リフォーム計画の予定などに役立ち、売主と買主双方にメリットがあります。
インスペクションの対象となる不動産
インスペクションの対象になる不動産は、次のとおりです。
- 居住用の建物
- 中古物件
- 戸建て、アパート、賃貸マンション
上記のとおり中古の住宅であれば、アパートやマンションもインスペクションの対象です。
一方、事務所や店舗経営に利用されている不動産、取り壊しが決まっている空き家は居住用ではないため、インスペクションの対象にはなりません。
有資格者が調査を担当
インスペクションは、次の住宅診断士と呼ばれる有資格者が調査を担当します。
- 既存住宅状況調査技術者
- 建築士会インスペクター
- JSHI公認ホームインスペクター
既存住宅状況調査技術者と建築士会インスペクターは、建築士が専門の講習に合格した住宅診断士です。
JSHI公認ホームインスペクターは民間の資格で、建築士ではなくても取得できます。
インスペクションを依頼する際は、どの有資格者が調査をするのか確認をしておくと、安心して住宅診断を任せられます。
不動産のインスペクションは義務化された?
不動産のインスペクションが義務なのか気になる方もいるでしょう。
インスペクション制度の説明は義務化されましたが、実施するかは売主や買主が自由に決められます。
インスペクションの説明が義務化に至った経緯を解説します。
不動産会社による説明を義務化
2018年4月1日の宅地建物取引業法の改正により、不動産会社に対してインスペクションの説明が義務化されました。
不動産会社が中古住宅の売買仲介をする際は、売主または買主に対してインスペクション制度の説明と、実施希望者に業者を斡旋する必要があります。
義務化される前は建物の状態を調査せずに売買をおこない、引渡し後に雨漏りやシロアリ被害などが見つかり、トラブルに発展したケースもあります。
引渡し後のトラブルを未然に防ぎ、売主や買主がリスクを抑えて安心な取引ができるように、インスペクションの説明が義務化されました。
実施は売主・買主の自由意志
前述のとおり、不動産会社のインスペクションの説明は義務ですが、実施するかは売主、買主が自由に決められます。
ただし築年数が古く、不動産トラブルを避けたいと考えている場合は、インスペクションを実施しておいたほうがよいでしょう。
反対に建てられてから2〜3年程度の物件の場合、建物の不具合はないケースが多いため、インスペクションは不要な可能性があります。
判断が難しい場合は、インスペクションが必要かどうかを不動産会社の担当に相談して、実施を検討してください。
不動産のインスペクションの調査方法
インスペクションがどのようにおこなわれるか、具体的に知りたい方もいるでしょう。
不動産のインスペクションでチェックする項目や調査方法を解説します。
調査項目
インスペクションの調査項目は、次の表を参考にしてください。
物件の種類 | 構造耐力上主要な部分 | 雨水の侵入を防止する部分 |
戸建て | 基礎、土台、柱、壁、横架材、屋根板、斜材、小屋根 | 基礎、基礎杭、床版、壁、外壁、開口部、屋根、屋根板、外壁 |
マンション | 基礎、基礎杭、床版、壁、外壁、屋根板 | 外壁、屋根、開口部、配水管 |
上記の調査をおこない、戸建ての場合はシロアリの発生や雨漏りがないかを調べ、マンションは物件の状態を調査します。
不動産のインスペクションは不具合がないと合格、欠陥がある状態を不合格と表現します。
床下や屋根裏を専門の機会を利用して調査する場合は、別途料金がかかるケースもあるため、不動産会社に相談しながら進めるとよいでしょう。
調査方法
インスペクションの調査方法は、主に住宅診断士による目視検査です。
また専門機材での傾きの計測や壁や床を叩く打診、触って内部の湿気や不具合をチェックして建物の状態を調査します。
戸建ての場合はシロアリの被害を調べる目的で、床下に潜り込んで腐食がないかのチェックもおこないます。
ただし、目視や打診でチェックがおこなわれるため、調査には限界があり、物件の不具合を完全に把握できるものではないと考えておきましょう。
売主がインスペクションを実施するメリット
売主がインスペクションを実施する主なメリットは、次のとおりです。
- 不動産を好条件で売却できる可能性がある
- トラブルを防ぐことができる
- 既存住宅売買契約不適合保険に入れる可能性がある
インスペクションをおこなうメリットを詳しく解説します。
不動産を好条件で売却できる可能性がある
インスペクションをおこなうと、不動産を好条件で売却できる可能性があります。
売りに出している物件がインスペクションに合格していれば、買主が安心して購入できるためです。
インスペクションを利用した方が感じた効果は、次の表を参考にしてください。
効果 | 割合 |
希望金額で売れた | 64.3% |
スムーズに売却できた | 51.8% |
補修を求められた | 21.4% |
値引きを求められた | 10.7% |
安心して売却できた | 12.5% |
上記のとおり希望する金額で売れたと答えた方が一番多く、スムーズに売却できたと答えている方も半数以上いることがわかります。
インスペクションを実施すると、していない不動産との差別化を図れるため、買主が早く見つかったり、高い金額で売却できたりする可能性が高まります。
トラブルを防ぐことができる
引渡し後の不動産トラブルを未然に防げる点も、インスペクションをおこなうメリットの一つです。
売主は売却時に気づいていなかった不具合が発生した場合でも、責任を負わなければならない契約不適合責任があります。
たとえば、引渡し後にシロアリ被害や設備故障などの不具合が発覚した場合、買主から補修費用や損害賠償を請求される可能性があるため要注意です。
インスペクションをおこなえば、買主に建物の状態を納得してもらったうえで契約を結べて、トラブルを防ぎやすくできます。
既存住宅売買契約不適合保険に入れる可能性がある
インスペクションを実施して合格しておくと、既存住宅売買契約不適合保険に入れる要件を一つクリアできます。
既存住宅売買契約不適合保険の主な要件は、次のとおりです。
- インスペクションの合格(1年以内)
- 新耐震基準に適合している建物
既存住宅売買契約不適合保険とは、売却後の物件に不具合が見つかった際、補修費用をまかなえる保険で、売主や買主ともにトラブルに備えられて安心です。
また不具合があったときにやり取りするのは保険会社のため、当事者同士で連絡を取り合わなくてもよいのも、既存住宅売買契約不適合保険のメリットでしょう。
既存住宅売買契約不適合保険への加入を検討している場合は、インスペクションを実施しておくと手続きがスムーズになります。
売主がインスペクションを実施するデメリット
売主側がインスペクションを実施する際は、デメリットも把握しておく必要があります。
メリットとデメリットを両方知ったうえで、インスペクションをおこなうかを決めましょう。
補修が必要になるケースがある
インスペクションによって、建物の不具合や欠陥といった契約不適合(瑕疵)が見つかった場合、補修が必要になるケースがあります。
売却する前に契約不適合(瑕疵)が見つかる点は、トラブルを防止できることを考えるとメリットです。
一方でインスペクションを実施した結果、補修費用で支出が増える点はデメリットといえるでしょう。
不動産の契約不適合(瑕疵)を買主に説明し、納得のうえ契約してもらえる場合は、補修せずに売却しても問題ありません。
値引きされるリスクがある
インスペクションをした結果、中古物件に不具合が発見されるケースも珍しくありません。
住宅に欠陥が発見された場合は、引渡し後の修繕費用分の値引きを買主側から要求されるリスクがあります。
たとえば、インスペクションによってシロアリ被害が発見された場合、駆除費や修繕費の値引きを要求され、希望金額では売却できない可能性があります。
もちろん不具合がなければ好条件で売れる可能性もありますが、反対に値下げされるリスクもあるため、実施するかはよく検討する必要があります。
不動産のインスペクションにかかる費用
不動産のインスペクションにかかる費用相場は、戸建てで6万円程度、マンションで5万円程度です。
追加料金が発生するケースや、補助金制度に関して解説するため、インスペクションを検討している方は参考にしてください。
追加料金が発生する場合がある
前述した費用相場は基本料金のみで、調査する箇所が増えると追加料金が発生する場合があります。
専門の機械を利用した調査や小屋根の侵入調査、設備機器の点検などは基本料金には含まれておらず、依頼する場合はオプション料金が必要です。
追加料金を含めると10万円を超えるケースもありますが、築年数が古い物件は事前にさまざまな調査をしておくと、引渡し後のトラブルを防げます。
築年数が古い中古物件の取引でトラブルを避けたいと考えている方は、どの程度まで調査するかを含めて業者に相談してみましょう。
国・自治体の補助金制度を確認する
中古物件の売買でインスペクションを検討する際は、国や自治体の補助金制度が利用できるかを確認しましょう。
地域によっては、インスペクション利用時に補助金が出るケースもあるため、対象になる場合は申請したほうがお得になります。
たとえば愛知県であれば、空き家のインスペクションを実施する場合、要件を満たせば費用の半分の補助金を受け取れます。
地域の補助金制度によって要件や対象住宅、補助金額が異なるため、日本建築士事務所協会連合会の「補助金一覧」で利用できるか調べてみましょう。
不動産のインスペクションをおこなうべきタイミング
不動産の売主によるインスペクションは、不動産会社と契約して売却活動をはじめるまでの間におこないます。
解説したとおり、不動産会社にはインスペクションの説明義務があるため、話が出てきたタイミングで相談してみるとよいでしょう。
インスペクションをおこなう際の流れや、かかる期間を解説します。
インスペクションの流れ
インスペクションを実施する場合の一般的な流れは、以下のとおりです。
- 不動産会社に業者を紹介してもらう
- 業者を決めて依頼する
- 必要書類を提出する
- 建物の状況を調査してもらう
- 報告書を受け取る
- 料金を支払う
インスペクション業者は、不動産会社から紹介を受けられますが、自身で依頼先を探しても問題ありません。
業者によって費用や調査内容、担当者の対応などが異なるため、複数社を比較したうえで、依頼先を決めましょう。
必要な書類や資料はインスペクション業者によって異なりますが、間取り図や図面があれば実施できるでしょう。
インスペクションにかかる期間
業者にインスペクションを依頼してから、調査をおこなうまでは1週間ほどかかります。※4
インスペクションの調査自体は、2〜3時間程度ですが、建物の大きさや調査項目によっては、4〜5時間ほどかかることもあります。
物件の調査が終わると業者が報告書を1週間程度で作成し、書類やPDFファイルで送付するため、事前に受取方法を確認しておきましょう。
インスペクションは申し込みから実施まで1週間、調査から報告書の受け取りまで1週間、全体で2週間程度の期間がかかります。
不動産のインスペクションを依頼する先の選び方
インスペクション業者を自身で探す際は、実績や対応力、料金設定を意識して選ぶとよいでしょう。
業者を探す際に意識したいポイントを解説するため、参考にして依頼先を選んでください。
実績・経験が豊富にあるか
インスペクション業者を選ぶ際は、実績や経験が豊富にあるかをチェックしましょう。
中古物件といっても構造や経年による建物の状態はすべて異なるため、実績が多い業者に依頼したほうが安心できます。
公式サイトで実績を確認して、記載がない場合は担当者に聞いてみるのをおすすめします。
また木造や2×4など、建物の工法にもさまざまな種類があるため、所有している不動産の工法に詳しいかどうかもあわせて確認してください。
説明・対応が信頼できるか
担当する住宅診断士の説明のわかりやすさや、対応が信頼できるかも業者を選ぶ際に大切なチェック項目です。
インスペクションの報告時の説明で専門用語が多く、内容を理解できなければ、不具合に対してどのように対処したらよいかわかりません。
また住宅診断のあとは、依頼主や不動産会社と引渡し後の保証やアフターサービスで付き合いが続くため、信頼関係を築けそうかも大切です。
売主が不動産の素人でもわかりやすく説明ができ、良好な関係を続けられそうな業者を選べば、安心してインスペクションを任せられます。
費用が相場より安すぎないか
インスペクションの費用が、相場より安すぎる場合は注意する必要があります。
費用を安くしている業者は、住宅診断の実績が少なく、スキルに自信がない可能性があります。
また、リフォーム業者がインスペクションをおこなう場合、自社の仕事を増やす目的で費用を格安にしているケースもあるため要注意です。
インスペクションに限らず、依頼する仕事には相場があり、安い料金を設定するのには何かしらの理由があります。
インスペクション業者の費用を比較した際、相場より安すぎる場合は、やめておいたほうが無難でしょう。
不動産のインスペクションに関するよくある質問
不動産のインスペクションに関して、よくある質問と回答をまとめました。
立ち会いが必要なのかや失敗事例などが気になる方は、ぜひ参考にしてみてください。
中古マンションでもインスペクションはある?
中古のマンションでもインスペクションは可能です。戸建てと同様に、構造耐力上主要な部分と雨水の侵入を防止する部分の調査がおこなわれます。
またオプションで、給排水管路検査や設備稼働検査なども追加できるため、物件の状態にあわせて調査してもらいましょう。
インスペクションは立ち会いが必要?
インスペクションの立ち会いは必須ではありませんが、現地に行くのをおすすめします。
立ち会って実際に見たほうが調査内容と報告書を理解しやすく、わからないことはすぐに質問できます。
調査報告書のみだと理解できない可能性もあるため、インスペクションを実施する際は、できる限り立ち会いましょう。
インスペクションで後悔する事例とは?
インスペクションで後悔する主な事例は、次のとおりです。
- 格安業者に依頼して調査結果が簡易的すぎた
- オプションで屋根裏も調査すべきだった
- 住宅診断に立ち会わなかった
- 業者からリフォームの提案営業を受けた
インスペクションで失敗したくない方は、相場と同等の費用で住宅診断士の対応がよい業者を選びましょう。
まとめ
インスペクションの基本的な情報や調査方法、売主が実施するメリットやデメリットなどを解説しました。
中古物件の売却をする際は、必ず不動産会社からインスペクションの説明があるため、実施するかどうかを検討する必要があります。
インスペクションにはデメリットもありますが、不動産トラブルを避けたい場合は、実施しておくと安心できます。
住宅診断を依頼する業者を選ぶ際に、意識したいポイントは次のとおりです。
- 実績や経験
- 説明のわかりやすさや対応力
- 費用が相場より安すぎないか
引渡し後のトラブルを避けたい方は、本記事で解説した内容を参考にインスペクションを検討して、物件の売却を成功させましょう。
※1:建物状況調査(インスペクション)
※2:一般社団法人 日本建築士事務所協会連合会
※3:ホームインスペクションにかかる費用とは?物件の種類ごとに解説!
※4:ホームインスペクション(住宅診断)は入居後もできる!住宅診断のベストタイミング