離婚後にマンションを売却せず、妻がそのまま住み続ける場合、ケースによってはリスクが生じる可能性があります。
住宅ローンが残っている場合と、そうではない場合では対処法が異なるため、この記事ではケース別の対処法を解説します。
また離婚に際して注意すべきポイントと、財産分与について相談できる窓口も紹介します。妻がマンションに住み続ける場合だけでなく、財産分与について悩んでいる方もぜひ参考にしてください。
夫名義の家に妻が住み続けるリスクとは?
離婚後も夫名義のマンションに妻がマンションに住み続ける場合は、リスクが生じる可能性があります。この章では、代表的ともいえるリスクを3つ紹介します。
- 夫が住宅ローンを滞納するリスク
- 夫が家を売却してしまうリスク
- 夫が亡くなり相続が発生するリスク
夫が住宅ローンを滞納するリスク
離婚した後に妻と子どもがマンションに住み続ける場合でも、夫は「住宅ローンを完済するまで支払う」と約束するかもしれません。しかし病気や退職によって、夫の収入が不安定になる可能性はゼロではありません。
妻は夫の住宅ローンの連帯保証人になっているケースが多く、夫が滞納した場合は妻が返済することになります。もし返済できず滞納し続けた場合は、競売となり、立ち退きを余儀なくされるでしょう。
通常住宅ローンの返済期間は、数十年にわたります。連帯保証人である場合は、リスクがあることを忘れないようにしてください。
夫が家を売却してしまうリスク
離婚後、夫は妻がマンションに住み続けることを了承するかもしれません。しかし長い年月の間には、気持ちが変わる可能性があります。
また妻が住むマンションを売却して、住宅ローンを完済したいと考えるかもしれません。夫名義のマンションに、いつまでも住めるとは思わないようにしましょう。
夫が亡くなり相続が発生するリスク
もし夫が亡くなったら、夫名義のマンションは相続人が所有することになります。相続人が、元妻が住み続けることを了承するとは思えません。
夫の相続人から、直ちにマンションから退去するように要求される可能性が高く、住む家を奪われることになります。夫名義のマンションに住み続ける場合は、リスクがあると心得ましょう。
まず家の名義と住宅ローンの残高・連帯保証人を確認する
夫名義のマンションに妻が離婚後も住み続ける場合、夫が了承したとしても、状況によっては退去せざるを得なくなることがあります。
まずは、住宅ローン残高や連帯保証人について確認することから始めましょう。
- 家の名義を確認する方法
- 住宅ローンの残高を確認する方法
- 住宅ローンの連帯保証人を確認する方法
家の名義を確認する方法
まず、マンションの名義を確認します。購入時に代金を支払った割合で持分を登記しているため、妻が一部代金を支払っている場合は、夫との共有名義になっています。
家の所有者は、法務局で登記事項証明書を取得することで確認できますが、登記情報提供サービスを利用することで、オンライン上でも登記事項要約書と同じ内容を閲覧できます。
住宅ローンの残高を確認する方法
住宅ローンが残っているか否かで対処法は変わってくるため、離婚後に住み続ける場合は住宅ローンの残高を確認しましょう。
ちなみに住宅ローンの残高を調べたいときは、次のような方法があります。
- 返済予定表で確認する
- 残高証明書で確認する
- インターネットバンキングやアプリで確認する
- 金融機関の窓口で確認する
返済予定表で確認する
返済予定表とは、住宅ローンを借り入れた際に、金融機関が発行する書類です。なお繰り上げ返済した場合などは、実際のローン残高と異なります。
残高証明書で確認する
金融機関から1年に1回、年末の残高を証明する「残高証明書」が郵送で送られてくるので、この書面でも残高を確認できます。住宅ローン控除を受ける際にも利用する書類のため、実際に目にしたことがあるかもしれません。
なお金融機関によっては発行依頼手続きが必要な場合があるので、手元にない場合は問い合わせしてみましょう。
インターネットバンキングやアプリで確認する
インターネットバンキングや金融機関のアプリでも、ローン残高を確認できます。しかしすべての金融機関が対応しているわけではありません。インターネットバンキングやアプリを導入しているかどうかについては、借入れ先の金融機関に確認してください。
金融機関の窓口で確認する
金融機関の窓口で、直接ローン残高を確認することもできます。しかし身分証明書などの書類が必要になります。またローン契約者以外には残高を示さない可能性もあるため、事前に手続き方法や必要書類を確認しておくことをおすすめします。
住宅ローンの連帯保証人を確認する方法
自分が連帯保証人になっているのか分からないときは、住宅ローンの契約書である「金銭消費貸借契約書」を確認しましょう。連帯保証に関する定めが記載されており、連帯保証人の有無を確認できます。
もし金銭消費貸借契約書が見つからないときは、自分の個人信用情報を取得して確認する方法があります。次の機関へ個人信用情報の取得を申し込んでみましょう。ちなみに、どの機関も取得料は1,000円程度です。
- KSC(全国銀行個人信用情報センター)
- CIC(クレジットインフォメーションセンター)
- JICC(日本信用情報機構)
夫名義で住宅ローンが残っていないケース
夫名義のマンションに妻が住み続ける場合で、住宅ローンが残っていないケースの対処法を紹介します。
財産分与して名義を変更する
妻がマンションに住み続けるのであれば、財産分与して妻の単独名義に変更しましょう。財産分与は1/2ずつとするのが一般的ですが、残りの1/2を慰謝料や子供の養育費として分配することも可能です。
しかしマンションの評価額によっては高額とみなされ、贈与税がかかるおそれがありますので注意しましょう。
妻が夫に代償金を支払う
妻がマンションの評価額の1/2を代償金として夫へ支払うことで、マンションを妻の名義にすることもできます。
ただし代償金と引き換えにマンションを引き渡すと、妻へ売却したことになります。購入時より値上がりしていて、売却による所得が発生する場合は、譲渡所得税がかかります。なお買主が妻のときは、3,000万円控除が使えないため注意しましょう。3000万円の控除を使いたい場合は、離婚届を提出して夫婦の関係を解消してから財産分与の合意をし、譲渡の手続きを行った方がよいでしょう。
夫名義で住宅ローンが残っているケース
夫名義のマンションに妻が住み続ける場合で、住宅ローンが残っているケースの対処法を紹介します。
夫がローンを借り換える
夫がマンションに住まないときは、少なくとも住宅ローンを借り換える必要があります。夫の住宅ローンが残っている場合、夫がマンションに住んでいないことを理由に、一括返済やローンの借り換えを求められる可能性があるからです。
住宅ローンは自宅を購入するためのローンであり、他の金利と比べて低く設定されています。フリーローンなどへ借り換えることで金利は上がるので、月々の返済額に注意しましょう。
住宅ローンの名義を妻にする
夫の住宅ローンが残ったままの状態で妻が住み続けるとリスクがあるため、可能であれば妻名義の住宅ローンへ借り換えましょう。
流れとしては、夫が妻へ売却し、住宅ローンを完済します。妻は別の金融機関で住宅ローン組んで、夫へ売買代金を支払います。ただし妻の収入など、条件によっては難しいこともあるため、まずは金融機関に相談してみてください。
妻が夫へ家賃を支払って住む
妻が住宅ローンを借りるのが難しいときは、妻が夫へ家賃を支払って住み続ける方法があります。
夫は住宅ローンからフリーローンなどに借り換えしなければなりませんが、家賃を受け取ることで返済がしやすくなります。
しかし貸主と借主の関係とはいえ、連絡を取り合うことになります。また妻が家賃を支払ったとしても、夫が住宅ローンを滞納しないとは限らないため、公正証書を作成することをおすすめします。
妻が家に住み続けるときは名義変更する
妻が離婚後もマンションに住み続けるときは、基本的には名義変更することをおすすめします。名義変更や連帯保証人から外してもらうは次の通りです。
- 夫に代償金を支払って妻の単独名義にする
- 返済義務を免れるために連帯保証人から外してもらう
- 妻名義の住宅ローンに変更する
夫に代償金を支払って妻の単独名義にする
妻がマンションの評価額の1/2を代償金として夫へ支払うことで、マンションを妻の単独名義にできます。この時、登記上の名義も変更することを忘れないようにしましょう。
なお夫は、受け取った代償金や自己資金で住宅ローンを完済するようにします。なおローンが残っている場合は、基本的に妻の単独名義にすることはできません。
返済義務を免れるために連帯保証人から外してもらう
夫の住宅ローンの連帯保証人になっている場合は、離婚するタイミングで連帯保証人から外してもらいましょう。しかし通常は連帯保証人を変更することは難しく、住宅ローンを借り換える方法をとるのが一般的です。※1
別の金融機関で住宅ローンを契約し、既存の住宅ローンを完済する方法です。借り換えに登記費用や事務手数料がかかるため、あらかじめかかる諸費用を確認しておくことをおすすめします。
妻名義の住宅ローンに変更する
妻に安定した収入があり、住宅ローンが組める場合は、妻が住宅ローンを借り入れる方法があります。妻がすぐに代償金を用意できないときは、住宅ローンを組むことを検討しましょう。なお住宅ローンの名義を妻にすることで、マンションも妻名義にすることができます。
離婚する際に注意すべきポイント
この章では、離婚にともなうトラブルを避けるために、注意すべきポイントを5つ紹介します。
- 財産分与の家庭裁判所への申し立ては離婚後2年以内に行う
- 口約束ではなく公正証書を作成する
- 離婚したら金融機関へ連絡をする必要がある
- 児童扶養手当(母子手当)がもらえない可能性がある
- 家の固定資産税は所有者が払う
財産分与の家庭裁判所への申し立ては離婚後2年以内に行う
財産分与の申し立ては、離婚後2年以内に行いましょう。もし2年を超えると、家庭裁判所に申し立てができなくなるため注意が必要です。
口約束ではなく公正証書を作成する
公正証書とは公証人が作成する書類のことで、記載した内容に法的効力が生まれます。住宅ローンの支払いや財産分与などについては口約束ではなく、公正証書に記録しておきましょう。
話し合った内容が法的に明確になり、万が一相手側が住宅ローンの支払いを怠ったときは、差押えなどの強制執行が可能です。
離婚したら金融機関へ連絡をする必要がある
離婚したこと自体は、住宅ローンの借入に影響はありません。しかし夫がマンションに住まなくなる場合は、住所や電話番号が変更になる旨を、金融機関に連絡する必要があります。
債務者の義務を怠り、契約違反とみなされた場合は、残債の一括返済を請求される可能性があります。念のため住宅ローンの約款を確認するようにしましょう。
児童扶養手当(母子手当)がもらえない可能性がある
児童扶養手当とは、ひとり親家庭の生活の安定を目的に支給される手当です。以前は母子手当てと呼ばれていましたが、現在は父子家庭も対象となるため、名称が変わりました。
夫名義のマンションに妻が住み続ける場合、家賃に相当する額を夫から援助されているとみなされ、児童扶養手当の支給がストップする可能性があります。条件によって対応が異なることもあるため、実際には自治体の窓口で確認してください。
家の固定資産税は所有者が払う
夫名義のマンションに住んでいたとしても、そのマンションの固定資産税や都市計画税の納税義務者が夫であることに変わりはありません。ちなみに固定資産税等は、1月1日の所有者が納税義務者となります。
離婚の財産分与について相談・手続きできる窓口
離婚の財産分与について話がまとまらないときは、専門家に相談しましょう。自治体や国の機関の他に、家庭裁判所や弁護士に相談する方法が考えられますが、無料で相談できる方法もあります。
- 自治体の相談窓口(法律相談会)
- 法テラス
- 家庭裁判所
- 弁護士(法律事務所)
自治体の相談窓口(法律相談会)
自治体によっては、法律相談会を開催しています。通常無料で利用できますが、予約制であることが多いです。まずはお住いの自治体に法律相談会があるのか確認し、予約してから足を運ぶようにしましょう。
法テラス
「法テラス」とは国が設立した総合案内所で、経済的に余裕がない方に対しては、無料の法律相談を受け付けています。
電話やメールの他、対面でも相談できます。受付時間や利用料は以下の通りです。
電話番号:0570-078374(もしくは03-6745-5600)
受付時間:平日9時~21時、土曜日9時~17時 ※祝日・年末年始を除く
利用料:無料
通話料:固定電話からは全国一律3分8.5円(税別)
携帯電話からは20秒10円程度(税別)
家庭裁判所
離婚について話がまとまらない場合は、家庭裁判所の調停手続きの利用を検討しましょう。子どもの親権や養育費、財産分与、慰謝料など、離婚にまつわる相談もできます。なお申し立てに必要な費用は、1200円分の収入印紙と連絡用の郵便切手代程度です。
弁護士(法律事務所)
相手側と顔を合わせたくないときや、親権や慰謝料について争っているときは、弁護士に相談することも視野に入れましょう。
弁護士には専門分野があることが多く、離婚を専門としている弁護士もいます。インターネットで検索するなどして、依頼先を探しましょう。弁護士費用は弁護士によって異なるため、依頼する弁護士に確認するようにしてください。
まとめ
離婚後も夫名義のマンションを売却せず、妻がそのまま住み続ける場合、思いもしないリスクが生じる可能性があります。
離婚後も住み続けることを了承したとしても、長い間には状況が変わることがあります。できれば連帯保証人から外してもらうか、マンションを妻の単独名義にしてもらうなど、対処することをおすすめします。