不動産を売却する際、税金控除の制度を正しく活用すれば、支払う税額の大幅削減が可能です。
ただし、適用条件や所定の手続きがあるため、正しく理解していなければ損をするリスクがあります。
この記事では、以下の3点についてわかりやすく解説します。
- 不動産売却で控除される譲渡所得税
- 不動産売却で使える控除
- 控除を使う際の注意点
税金と控除について理解を深め、お得に不動産を売却しましょう。
不動産売却時に使える控除・特例一覧
不動産を売却した際、条件を満たすことで税金が軽減される制度が複数あります。
| 売却のケース | 使える控除・特例 |
| 自宅(居住用財産)を売却する場合 | 3,000万円の特別控除/軽減税率の特例 |
| 自宅を売却して買い替える場合 | 買い換えの特例 |
| 自宅を売却して譲渡損失が出た場合 | 譲渡損失の特例 |
| 相続した不動産を一定の条件下で売却した場合 | 相続不動産を売却したときの特例 |
売却内容に応じて適用できる制度が異なるため、どの制度に該当するかを事前に確認しておくことが重要です。
不動産売却で使える主な控除・特例
不動産を売却した際に使える主な控除は、次の5つです。
- 3,000万円の特別控除
- 軽減税率の特例
- 買い換えの特例
- 譲渡損失の特例
- 相続不動産を売却したときの特例
各制度には適用条件があり、売却の内容や所有期間、用途などによって判断されます。
誰でも自由に使える制度ではないため、事前に内容を把握しておきましょう。
ここでは、不動産売却で使える主な控除・特例の申請方法や必要書類について解説します。
3,000万円の特別控除
3,000万円の特別控除は、譲渡所得から最大3,000万円を差し引ける制度です。
不動産の所有期間に制限はなく、短期所有でも制度の対象となります。
正式名称は「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」で、主に次の条件を満たすことで使用できます。
- 自身が住んでいる不動産を売却する過去3年以内に特定の特例を利用していない
- 売却の相手が親族や同居している家族でない
など
控除を受けるには、確定申告時に「譲渡所得の内訳書」を添付し、税務署へ提出する必要があります。
軽減税率の特例
軽減税率の特例は、譲渡所得税の税率が低くなる特例です。
10年以上所有した居住用不動産を売却した場合に適用され、税負担を抑えることができます。
たとえば所有期間が5年を超える不動産を売却した場合、通常の譲渡所得税率は20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)ですが、軽減税率の特例を使うと次のように軽減されます。
| 税目 | 税率 |
| 所得税 | 10% |
| 復興特別所得税 | 0.21% |
| 住民税 | 4% |
| 合計 | 14.21% |
ただし、軽減税率が適用されるのは課税譲渡所得6,000万円以下の部分のみです。
超過分には通常の20.315%が適用されます。
軽減税率の特例が適用される条件は、主に次のとおりです。
- 自身が住んでいる不動産を売却すること
- 所有期間が10年を超えていること
- 3年以内に特定の控除を受けていないこと
- 買い手が親族でないこと
控除を受けるためには、確定申告をおこなう必要があります。
準備する書類は「譲渡所得の内訳書」と「登記事項証明書」です。
なお、軽減税率の特例は3,000万円の特別控除と併用できるため、両方の条件を満たせばより大きな節税効果が得られます。
買い換えの特例
買い換えの特例とは、不動産を売却し、新たな不動産を購入した場合に使える特例のことです。
正式には「特定の居住用財産の買換えの特例」といい、適用を受けると、買い換え先の不動産を将来売却するまで税金が発生しません。
課税そのものが免除されるわけではないものの、一時的に家計への負担を軽減できる仕組みになっています。
買い換えの特例における適用条件は、次のとおりです。
- 自身が住んでいる不動産を売却すること
- 売却金額が1億円以下であること
- 居住期間と所有期間が10年超
- 過去3年以内に特定の控除を受けていない
- 買い手が親族でないこと
買い換え先の不動産に関する条件も複数あるため、詳しくは国税庁のホームページから確認してください。
買い換えの特例を受けるためには、確定申告が必要です。
主な必要書類は、次のとおりです。
- 譲渡所得の内訳書
- 登記事項証明書
- 売買契約書の写し
特例の適用期限は2025年12月31日までに譲渡した場合が対象となっているため、利用を検討している場合は早めに準備を進めましょう。
譲渡損失の特例
譲渡損失の特例は、マイホームを売却した際に損失(譲渡損)が出た場合、一定の条件を満たすことで損失分を所得から控除できる制度です。
正式名称を「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」といいます。
損失が出た場合、譲渡所得は発生しませんが、その分を給与所得や事業所得など他の所得と相殺(損益通算)することで、所得税・住民税の負担を軽減できます。
1年で控除しきれない場合、最大3年間繰り越して控除(繰越控除)することも可能です。
譲渡損失の特例における適用条件は、次のとおりです。
- 自身が住んでいる不動産の売却
- 売却した年の1月1日時点で、所有年数5年超
- 買い換え先の不動産の床面積が50㎡以上
- 買い手が親族でないこと
- 過去3年以内に特定の控除を受けていない
特例を利用するには、不動産を売却した翌年の確定申告が必要です。
<確定申告に必要な書類>
- 居住用財産の譲渡損失の金額の明細書
- 登記事項証明書
- 売買契約書の写し
- 買い換え先の住宅ローンの残高証明書
確定申告の期間は、不動産を売却した翌年の2月16日から3月15日までです。
利用を検討している方は、事前に必要書類を揃え、期限内に申告できるよう準備しておきましょう。
相続不動産を売却したときの特例
相続によって取得した空き家などを売却した場合、「3,000万円の特別控除」が適用されるケースがあります。
正式名称は「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」で、譲渡所得から最大3,000万円を差し引くことができます。
遺贈によって取得した不動産の売却も含まれます。
不動産と売却に関する適用条件は次のとおりです。
<対象となる不動産の要件>
- 1981年5月31日以前に建築された旧耐震基準の住宅であること
- 区分所有建物登記がされていないこと
- 被相続人が住んでいた不動産であること
<適用条件>
- 相続により取得した不動産である
- 相続から3年以内に売却すること
- 売却金額が1億円以下であること
- ほかの特例を受けていないこと
- 買い手が親族でないこと
- 被相続人が独居状態もしくは老人ホーム等に入居していた状態であったこと
- 相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないこと
売却した翌年に税務署への確定申告も必要になるので、次の書類を準備しておきましょう。
<確定申告に必要な書類>
- 譲渡所得の内訳書
- 登記事項証明書
- 被相続人居住用家屋等確認書
- 耐震基準適合証明書または建設住宅性能評価書の写し
- 売買契約書の写し
なお、相続不動産を売却したときの特例は、適用期限が2027年12月31日までです。
該当しそうな場合は、早めに不動産会社や税理士に相談しましょう。
不動産売却における控除の注意点
不動産を売却する際、特別控除を利用するためにはいくつかの注意点があります。
とくに見落としがちなのが、「住宅ローン控除との併用可否」と「確定申告の手続き」です。
また、組み合わせによって併用できない特例もあるため、事前に内容を確認しておきましょう。
ここでは、それぞれのポイントを詳しく解説します。
住宅ローン控除との併用ができない場合がある
不動産の売却後、新居を購入する際に「住宅ローン控除」を利用するケースは少なくありません。
住宅ローン控除とは、住宅ローンの年末残高に応じて所得税などが軽減される制度です。
ただし、不動産売却時に使える各種控除のなかには、住宅ローン控除と併用できないものがあるため注意しましょう。
| 住宅ローン控除と併用できる | 住宅ローン控除と併用できない |
| 譲渡損失の特例 | 3,000万円の特別控除 |
| 相続不動産を売却したときの特例 | 軽減税率の特例 |
| 買い換えの特例 |
併用できない場合は、どの控除を使うと最も節税できるかを試算したうえで選択することが大切です。
早めに不動産会社や税理士に相談し、最適な方法を確認しておきましょう。
組み合わせによって併用できない特例がある
不動産売却に関する特例制度には、それぞれ適用条件や併用の可否が決められています。
たとえば、「3,000万円の特別控除」と「軽減税率の特例」は併用できますが、「買い換えの特例」とは併用できません。
売却と購入を同時に行う場合、どの制度を優先するかで節税効果が大きく変わるため、事前の確認が重要です。
不明点がある場合は、税理士や不動産会社に早めに相談し、最も有利な組み合わせを選びましょう。
控除の適用には確定申告が必要になる
不動産の売却で控除の適用を受ける場合は、確定申告が必要です。
申告期間は、売却した翌年の2月16日から3月15日までなので、期間内に確定申告書と必要書類を揃えて、現在の居住地を管轄する税務署に提出しましょう。(※売却した不動産の所在地ではない点に注意)
なお、確定申告は郵送やe-Tax(オンライン)でも可能です。
必要書類は税務署の窓口または国税庁のWebサイトからダウンロードして入手してください。
不明点があれば早めに税務署へ相談し、スムーズに申告できるよう備えておきましょう。
確定申告の相談は2月16日から3月15日以外の期間でも可能です。
不動産売却で控除される「譲渡所得税」とは?
譲渡所得税は、不動産売却の利益にかかる「所得税」と「住民税」と「復興特別所得税」の総称です。
不動産売却では各種控除を利用することで、譲渡所得税を軽減または非課税にできるケースも多くあります。
控除の内容を理解する前に、まずは譲渡所得税の基本的なしくみや計算方法を押さえておきましょう。
ここでは、譲渡所得税の税率や計算方法について、わかりやすく解説します。
譲渡所得税の税率
譲渡所得税の税率は、売却した不動産の所有年数によって変わります。
所有期間が5年を超えていれば「長期譲渡所得」となり、税率は約半分に軽減される仕組みです。
| 不動産の所有年数 | 名称 | 税率 | 税率の内訳 |
| 5年以下 | 短期譲渡所得 | 39.63% | 所得税30%・住民税9% |
| 5年超 | 長期譲渡所得 | 20.315% | 所得税15%・住民税5% |
たとえば、長期譲渡所得(税率20.315%)の計算式は、以下のとおりです。
所得税15% × 2.1% = 復興特別所得税0.315%
所得税15% + 住民税5% + 復興特別所得税0.315% = 長期譲渡所得20.315%
所有期間によって税率は大きく変わるため、譲渡所得税は売却のタイミングを見極める上でも重要なポイントとなります。
譲渡所得税の計算方法
譲渡所得税の金額は、「課税譲渡所得」に税率をかけて算出します。
まずは課税譲渡所得の求め方を確認しましょう。
<課税譲渡所得の計算式>
課税譲渡所得 = 不動産の売却金額 – ( 取得費 + 譲渡費用 ) – 控除額
たとえば、5年を超えて所有していた不動産を売却する場合の譲渡所得税は、以下のように求めます。
譲渡所得税 = 課税譲渡所得 × 20.315%
譲渡所得税を正確に計算するためには、「取得費」や「譲渡費用」、適用できる控除額が必要な点を理解しておきましょう。
取得費とは?
取得費とは、不動産を購入したときにかかった費用のことです。
建物や土地の購入代金のほか、登記費用や仲介手数料、リフォーム費用なども含まれます。
ただし、火災保険料などは含まれません。
取得費がわからない、あるいは取得費が売却金額の5%未満になる場合は、売却価格の5%を取得費として計上することが認められています。
譲渡費用とは?
譲渡費用とは、不動産を売却する際に直接かかった費用のことです。
たとえば、次のような費用が譲渡費用に該当します。
- 不動産会社への仲介手数料
- 土地の測量費
- 売買契約書にかかる印紙代 など
一方、次のような費用は譲渡費用に含まれません。
- 売却までに支払った固定資産税
- 引っ越し費用 など
あくまで「売却に直接関係する費用」のみが譲渡費用として認められる点に注意しましょう。
譲渡所得税の計算シミュレーション
「取得費」と「譲渡費用」をもとに、譲渡所得税のシミュレーションをしてみましょう。
今回は次の条件を想定します。
| 項目 | 詳細 |
| 売却金額 | 5,000万円 |
| 土地の取得費 | 2,000万円 |
| 建物の取得費 | 3,000万円(木造・築15年) |
| 減価償却後の取得費合計 | 3,745万円 |
| 譲渡費用 | 200万円 |
| 控除額 | なし(特例などを使わないケース) |
課税譲渡所得の計算式は次のようになります。
5,000万円 -(3,745万円 + 200万円)= 1,055万円
次に、税率(所有期間5年超のため20.315%)をかけて、譲渡所得税を算出しましょう。
1,055万円 × 20.315% = 約214万円
上記の計算のとおり、不動産の売却によって得た利益のうち、214万円分を譲渡所得税として納めなければならないことになります。
不動産売却時に欠かせない税金対策
不動産を売却する際は、譲渡所得税などの税金が発生する可能性があります。
手取り額を最大化するためには、事前の対策が重要です。
ここでは、売却前に実践しておきたい税金対策を3つ確認していきましょう。
取得費を確認できる書類を用意する
譲渡所得税の計算では、取得費が不可欠です。
取得費を正しく証明できない場合、原則として概算取得費(譲渡価格の5%)で算定され、実際よりも税金が高額になる可能性があります。
購入時の売買契約書や設備費用の明細書など、取得費を示す書類は早めに整理しておきましょう。
控除できる費用はすべて計上する
譲渡所得税の計算では、「譲渡費用」として売却時にかかった費用を控除できます。
たとえば、仲介手数料・測量費・登記費用・印紙代などは計上可能です。
小さな金額でも控除対象になることがあるため、領収書や請求書はすべて保管しておき、抜け漏れなく計上しましょう。
確定申告の準備を早めにおこなう
不動産の売却で利益が出たり、控除を使ったりする場合は、翌年に確定申告が必要です。
確定申告書や必要書類の準備には時間がかかるため、早めに着手しておくことで余裕をもって対応できます。
とくに初めて申告する場合や特例を使う場合は、不明点も出てきやすいため、税務署や税理士への相談も視野に入れながら進めましょう。
不動産売却時の控除や税金に関するよくある質問
ここでは、不動産を売却した際に発生する「確定申告」や「取得費の不明点」など、よくある疑問についてわかりやすく解説します。
初めて売却を経験する方にも役立つ内容ですので、ぜひ参考にしてください。
確定申告は自分でできる?
確定申告は、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を使えば、画面の指示に従って入力するだけで申告書が作れます。
慣れていない方でも比較的取り組みやすいでしょう。
ただし、譲渡所得や各種控除を使う場合は計算がやや複雑です。
迷ったときは税務署や税理士に相談するなどの方法をおすすめします。
確定申告のやり方は?
不動産を売却した場合、確定申告の基本的な流れは次のとおりです。
- 必要書類(契約書など)を準備
- 譲渡所得を計算し申告書作成
- 添付書類と申告書を提出
申告期間は毎年2月16日〜3月15日です。
控除を受ける場合は、各控除に応じた証明書(例:耐震基準適合証明書、住民票の写しなど)も忘れずに用意しておきましょう。
申告はe-Taxを使ったオンライン提出のほか、税務署への持参や郵送でも受け付けています。
取得費がわからない場合は?
取得費がわからないときは、「概算取得費」として売却価格の5%を使って計算できます。
ただし、これはあくまで暫定的な扱いなので、実際の取得費がもっと高かった場合でも差額は反映されません。
結果的に税額が多くなる可能性もあるため、古い契約書や領収書が残っていないか、家族や取引業者に確認してみてください。
まとめ
不動産を売却して得た利益には、譲渡所得税がかかります。
譲渡所得税の税率は約20%から約40%と高いため、節税対策をしなければ、手元に残る金額が少なくなってしまいます。
次のような特例や控除を活用して、税負担を軽くしましょう。
- 3,000万円の特別控除
- 軽減税率の特例
- 買い換えの特例
- 譲渡損失の特例
- 相続不動産を売却したときの特例
譲渡所得の計算方法や控除の条件は複雑に感じるかもしれませんが、正しく理解しておくことが確定申告の正確な手続きにつながります。
住宅ローン控除と併用できるかどうか、それぞれの制度の適用要件についても事前に確認しておくことが大切です。
損をしないためにも、自身の状況に合った控除を見極めて、節税効果を高められるよう準備を進めましょう。


