土地と建物の名義が違う不動産を売却したいけれど、「どのように進めたらよいかわからない」と考える方もいるでしょう。
名義が異なる不動産の売却で、できる限りトラブルを避けたい、スムーズに売りたいと考えるときもあるのではないでしょうか。
土地と建物の名義が違う場合でも、それぞれを単独で売却したり買取業者に依頼したりできるため、過度に心配する必要はありません。
本記事では、土地と建物の名義が違う不動産を売却する方法や難しいケースの対処法、名義を統一する手続きなどについて解説します。
相続や離婚などで名義が異なっている不動産があり、どのように売却すればよいかわからない方は、ぜひ参考にしてください。
土地と建物の名義が違う不動産を売却する方法
土地と建物の名義が違う場合でも、次の4つの方法で不動産を売却できます。
- 土地・建物を単独で売る
- 一方の名義人が売却・買取して売る
- 名義が異なったまま同時に売る
- 買取業者に依頼する
それぞれの方法を解説するため、土地と建物の名義が違う不動産を売ろうと考えている方は、どうするかの判断材料にしてください。
土地・建物を単独で売る
土地と建物は、それぞれ単独での売却が可能です。
一般的には両方セットでの売却が多いですが、土地と建物の権利は分かれているため、それぞれ単独で売れます。
たとえば親名義の土地に子どもが建物を所有している場合、売却する際にお互いの同意は必要ありません。
ただし、借地権が設定されている場合で、借地人の建物を売却する際には、地主の承諾が必要になります。
後ほど「借地権がある場合」の章で詳しく解説するため、借りている土地に建物がある方は参考にしてください。
一方の名義人が売却・買取して売る
土地と建物の名義が違う場合、一方の名義人が不動産を売却、または買取して売る方法もあります。
結果的に土地と建物の名義人が同じになるため、名義が違う不動産を売却したいときに有効な手段です。
名義を統一すれば権利関係でトラブルにならずに済む、通常の相場で売却できるなどのメリットがあります。
ただし名義を統一する側は、土地または建物を購入する資金が必要になるため、お金を用意できない方には向いていません。
名義が異なったまま同時に売る
解説してきた方法が難しい場合は、名義が異なった状態で同時に売却しましょう。
お互いに売却する意思があり、同意していれば名義が違うままでも売却できます。
たとえば親の名義の土地に子ども名義の建物が建っている場合、親子で売却する意思があれば同意のもと同時に売却可能です。
買主が土地と建物でそれぞれ契約を結び、手続きが複雑になるため、同時売却の実績が豊富な不動産会社に相談しましょう。
買取業者に依頼する
事情が複雑で一般的な売却が難しいと感じるなら、不動産買取業者に依頼するのもひとつの手段です。
買取業者は法律や登記の問題に精通しており、名義が異なるケースでも調整をおこないながら買い取ってくれます。査定価格は市場価格よりやや低めになる傾向がありますが、スピーディな現金化が可能です。
売却にかかる負担を最小限にしたい方や、事情を話すのが面倒な方にはとくにおすすめの方法です。
土地と建物の名義が異なるため売却が難しいときはどうする?
売却しようにも、名義人の状況や権利関係の問題で手続きが進まないケースもあります。
それぞれの状況に合わせた法的・実務的な選択肢を知っておくことで、スムーズな売却の実現につながります。
土地と建物の名義が違ううえに売却が難しいときの対処法を解説するため、状況が当てはまる方は参考にしてください。
住宅ローンがまだ残っている場合
建物の名義人が住宅ローンを返済中であれば、原則としてローン完済が必要です。
抵当権が設定されている不動産は自由に売却できません。売却代金で完済できる場合は問題ありませんが、難しい場合は金融機関に相談する必要があります。
住宅ローンの契約書には、「名義変更は金融機関の承諾が必須」と記載されているケースが多く、勝手に名義を変えると契約違反になります。
契約に違反した場合は、住宅ローンの残債の一括返済を求められる可能性もあるため、必ず金融機関の承諾を得るようにしてください。
名義人が行方不明の場合
名義人が所在不明で連絡が取れない場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てる必要があります。
不在者財産管理人とは、行方不明の不在者の代わりに財産を管理する人を指し、民法第25条(不在者財産管理人の選任)によって権限が与えられています。
(権限の定めのない代理人の権限)
第百三条 権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。
一 保存行為
二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
引用元:民法|e-Gov法令検索
不在者財産管理人の本来の権限は、財産の保存行為に限られます。
そのため、不動産を売却するには、別途、家庭裁判所から「権限外行為許可」を得なければなりません。
許可が得られて初めて、売却活動をはじめることができます。
名義人が認知症の場合
認知症により判断能力が低下した名義人がいる場合、自身の名義の不動産を自由に売却することはできません。
このような場合は家庭裁判所を通じて「成年後見人」の選任が必要になります。成年後見制度を利用すれば、後見人が本人に代わって契約行為を行えます。※成年後見人による不動産売却には家庭裁判所の許可が必要です。
ただし、成年後見人ができるのは名義人の利益になることのみで、自身の利益を優先する行為は家庭裁判所からの許可を得られません。
また成年後見人制度は、申し立てから3〜4か月程度かかるため、早めにはじめる必要があります。
名義人が死亡している場合
名義人が亡くなっている場合、遺産相続協議で名義人を統一したほうがよいでしょう。
相続人が複数人いる場合は共有名義にもできますが、土地や建物を売却する際は全員の同意が必要になり、トラブルに発展する可能性があります。
名義人を統一すれば売却がスムーズに進み、財産を分配する際に不公平が生まれにくい、権利関係で揉めなくて済むなどのメリットがあります。
名義人の統一には相続登記が必要になるため、司法書士や弁護士などの専門家に相談しましょう。
借地権がある場合
土地が借地で、建物のみを所有しているケースでは、地主の承諾が必要です。
建物を単独で売るつもりでも、実際には借地権もセットで買主に売却する形になり、借地権がある建物を無断で譲渡するのは契約違反になります。
地主から承諾を得る際に承諾料が必要になるケースが一般的なため、事前にどのくらいかかるのかを確認しておきましょう。
借地権がある建物を売る際は、不動産会社に必ず伝えて、売却方法や価格などを相談しながら進めてください。
土地と建物の名義が違う主な原因
土地と建物の名義が違う主な原因は、次のとおりです。
- 親名義の土地に子ども名義の家を建てた
- マイホーム購入時に夫婦で名義を分けた
- 相続した不動産を兄弟で分けた
- 相続した土地に家を建てたが土地の名義変更をしなかった
上記のような場合、売却や相続が関係してくると、大きなトラブルに発展する可能性があります。
自身がどのケースに当てはまるのかを把握しておき、避けられるトラブルは事前に対策しておきましょう。
親名義の土地に子ども名義の家を建てた
土地と建物の名義が違う原因として、親名義の土地に子ども名義の家を建てたケースが考えられます。
実家の敷地に子どもが自費で家を建てると、土地が親名義、建物が子名義になるケースが一般的です。
土地と建物の名義が親子で異なる場合、問題が発生するのは親がなくなり、他の相続人がいるときです。
他の相続人が親の土地を相続したいと考えた場合、親名義の不動産を均等に分配するように要求されるでしょう。
要求された際、親の遺産に土地と同じような価値の資産があれば、相続人の取り分に充てて公平に分配できます。
他に土地と同様の価値の資産がない場合は、不動産を売却して分配しなければならない可能性もあります。
マイホーム購入時に夫婦で名義を分けた
マイホーム購入時に、夫婦で土地と建物の名義を分けるケースも考えられます。
たとえば、資金がある妻が土地を一括購入し、夫が住宅ローンでマイホームを建てた場合は、名義が別々になります。
夫婦で名義を分けた場合、離婚するときや相続があると、トラブルに発展する可能性があるため注意が必要です。
マイホーム購入時に夫婦で名義を分けた方は、将来起こるリスクに備えて話し合っておくとよいでしょう。
相続した不動産を兄弟で分けた
相続時に兄弟姉妹が話し合い、土地を兄、建物を弟といったように分割して名義を分けることもあります。
一見平等な分け方に見えますが、両方売却してお金にしたいと考える兄弟が出てきたときに、スムーズに話が進まない可能性があります。
たとえば関係が悪化していたり、どちらかが遠方に住んでいたりすると、話し合い自体が難航するおそれもあるため要注意です。
相続時に親の土地と建物の名義を分けた場合は、今後どうするかを事前に話し合っておくとよいでしょう。
相続した土地に家を建てたが土地の名義変更をしなかった
親から相続した土地に自宅を新築したものの、土地の名義変更(相続登記)をおこなわず放置してしまうケースも少なくありません。
ただし、2024年4月から相続登記が義務化されており、不動産を相続したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。
相続人が複数いる場合は、あらためて遺産分割協議をする必要があります。
遺産分割協議で親の土地を均等に分けるように要求されれば、不動産を売却しなければならない可能性があります。
相続人が1人の場合は相続登記をすれば問題ありませんが、複数人いるときはトラブルに発展するケースもあるでしょう。
土地と建物の名義が違う場合の税金はどうなる?
土地と建物の名義が違うときの税金がどうなるか気になる方もいるでしょう。
固定資産税や各種控除が利用できるかを解説するため、土地と建物の名義が異なる方は参考にしてください。
固定資産税はそれぞれの名義人が納める
土地と建物で名義が異なる場合、それぞれの所有者が別々に固定資産税を納める必要があります。
たとえば、土地が父親、建物が子ども名義なら、それぞれが名義部分の税金を市町村に納付する形になります。
実際にはどちらかがまとめて支払いをおこない、内部で精算することも多いですが、税務上は独立した課税対象です。
相続などで名義が曖昧になっている場合、課税通知書の宛名が故人のままになることもあり、早めの名義確認が大切です。
住宅ローン控除を受けられない可能性がある
土地と建物の名義が異なる場合、住宅ローン控除を受けられない可能性があります。
親名義で土地を購入し、自身の名義のマイホームを建てた方は、建物の部分のみ住宅ローン控除の対象です。
また土地は夫婦の共有名義、建物は夫の名義にした場合、同様に土地の部分は住宅ローン控除の対象にはなりません。
ただし、配偶者居住権が設定されていたり、相続で土地が共有名義になっていたりするケースは、要件を満たせば控除を受けられる可能性があります。
対象になるかわからない場合は、税理士をはじめとした専門家に相談しましょう。
3,000万円の特別控除の適用には条件がある
マイホーム売却時に適用される「3,000万円特別控除」を利用したい場合は、次の要件を満たす必要があります。
- 土地と建物を同時に売却
- 土地と建物の所有者が親族関係で生計を一にしている
- それぞれの所有者が一緒に住んでいる
たとえば、土地の名義が妻で建物の名義が夫の場合は、3,000万円の特別控除を利用できる可能性は高いでしょう。
詳しい要件や具体例などを知りたい方は、国税庁の「家屋と敷地の所有者が異なるとき」のページを参考にしてください。
土地と建物の名義を統一する際の手続き
土地と建物の名義が異なるままでは売却が進めにくく、買主にも敬遠されがちです。スムーズな売却を実現するには、名義を一本化しておくことが得策です。
ここでは、名義統一に向けた具体的な手順をわかりやすくご紹介します。
1:名義統一の交渉をする
最初に必要なのは、土地と建物の所有者同士での話し合いです。
たとえば建物が子ども名義、土地が親名義であれば、どちらか一方の名義を変更して統一します。
どちらの名義に統一しても問題はありませんが、家の売却を進める方の名義にしておけば、手続きがスムーズに進みます。
2:売却・買取価格を決定する
お互い名義統一に同意したら、次に売却または買取価格を決定します。
複数の不動産会社に査定を依頼して、土地や建物の評価額をもとに適正な取引金額を設定してください。
親子や兄弟間でお金のやり取りをせずに不動産の名義変更をすると、贈与とみなされて贈与税が課税される可能性があります。
また、あまりにも安すぎる金額で不動産取引をすると、みなし贈与と扱われて贈与税が課税されるおそれもあります。
贈与税は税率が高い税金です。課税を避けるためにも適正な取引価格を設定してください。
3:司法書士に相談する
名義の統一に合意して適正な取引金額を決めたら、次に名義変更をおこないます。
名義変更には法的な登記手続きが必要なため、専門家である司法書士に相談しましょう。
自身で手続きを進めることも可能ですが、売却を前提とするなら、確実性の高い司法書士への依頼をおすすめします。
名義変更を司法書士に依頼する場合、法律事務所によって異なりますが、10万円程度かかると覚えておきましょう。
4:決済・登記をおこなう
金銭のやりとりと登記申請は、通常は同日におこなわれます。決めた手続きの日に決済と所有権移転登記の申請をしてください。
所有権移転登記の申請をしたら、1週間程度で名義変更が終わります。
無事に土地と建物の名義が統一されたら、通常の不動産と同様に売却活動を進められ、相場価格での取引が期待できるでしょう。
土地と建物の名義が違う不動産を売却する際のよくある質問
名義が異なる不動産を売却する際は、手続きや負担に関して多くの疑問が生まれます。
よくある質問に回答しているため、土地と建物の名義が違う不動産を売却したい方は、ぜひ参考にしてください。
解体費用は誰が負担する?
建物の解体費用は、原則として建物の所有者が負担します。
たとえば、土地が親名義で建物が子ども名義なら、建物を解体したい親が勝手に壊すことはできません。
建物を所有する子どもが自身の不動産として判断し、解体するかを決定して費用を負担する必要があります。
土地の所有者が建物の所有者に立ち退きを要求できる?
土地の所有者が他人に土地を貸している形で建物が建っている場合、基本的には一方的に立ち退きを求めることはできません。
借地人は借地借家法によって保護されているため、余程の理由がない限り、自身の名義の家に住み続けられます。
ただし、地主側に正当な事由があれば、立ち退き料を支払ったうえで、立ち退きを要求できます。
離婚による名義変更でかかる税金は?
離婚を機に不動産の名義を変更する場合、かかる税金は次のとおりです。
- 登録免許税
- 譲渡所得税
- 不動産取得税
- 贈与税
ただし財産分与の場合は、贈与税や不動産取得税は原則非課税になります。
また譲渡所得税は不動産の価値が購入時より下がっているときや、特例で譲渡所得が全額控除された場合は課税されません。
まとめ
土地と建物の名義が違う不動産を売る方法や売却が難しいケースの対処法、名義を統一する際の手続きや流れを解説しました。
名義が異なる不動産を売りたい場合は、次の売却方法のなかから選ぶ必要があります。
- 土地・建物を単独で売る
- 一方の名義人が売却・買取して売る
- 名義が異なったまま同時に売る
- 買取業者に依頼する
土地と建物で名義が違う不動産は、相続が発生したときや離婚時にトラブルになる可能性があるため、できる限り統一しておくのをおすすめします。
不動産の名義を統一したい、土地と建物の名義が違う不動産を売りたいと考える方は、本記事の内容を参考に物件の売却を成功させましょう。