「相続した土地を売却したいが、兄弟との話し合いがうまく進まない」と、相続後の土地売却について悩みがある方は多いでしょう。
兄弟で土地を相続すると、相続人全員の承諾を得ない限り売却できません。
相続人が兄弟の場合は、トラブルを防ぐために相続前から対策を講じておくことが大切です。
本記事では、相続した土地を売却する際に兄弟でもめる理由、売却する際の注意点について解説します。
兄弟間のトラブルは深刻化しやすいため、本記事を参考にあらかじめ対策を講じておきましょう。
土地相続で兄弟が直面する「最初の壁」
土地は均等に分割しにくいため、兄弟で相続した後に処分するのは難しいものです。
相続財産が現金であれば、相続人が多くても1円単位でも分割できるため、均等に遺産をわけられます。
一方、土地は現金と異なり分割しにくいため、兄弟で相続する際にトラブルとなり、調停や訴訟に発展する場合もあります。
トラブルを防止するためには、もめる理由や土地の分け方を把握し、相続人全員が納得できる分割方法を探ることが大切です。
相続した土地売却の際に兄弟でもめる理由
相続した土地を売却する際に兄弟でもめる理由は、次のとおりです。
- 遺言書がない
- 相続財産における土地の割合が高い
- 想定していたより現金が少ない
- 寄与分を主張している
- 特別受益を主張している
それでは、兄弟でもめる理由について解説します。
遺言書がない
遺言書がないと相続の方針が定まらず、兄弟間でもめやすくなります。
相続する際に遺言書がある場合、原則として遺言書に記載された内容に従って相続します。
遺言書がない場合は相続人の話し合い(遺産分割協議)によって、相続財産を分割しなければなりません。
しかし、法定相続で定められた割合で分割しようとしても、土地を均等にわけられず、兄弟間でもめてしまいます。
もめてしまうと遺産分割協議がまとまらず、相続が進まなくなる可能性もあります。
相続財産における土地の割合が高い
現金よりも土地の評価額が高いと均等に分割できず、相続人同士のトラブルに発展しやすくなります。
土地の評価額よりも現金が多い場合、現金を用いて過不足分を精算すれば、もめずに相続を進められます。
しかし、現金が500万円、評価額5,000万円の土地が1つしかない場合、相続人2人で相続財産を均等にわけるのは困難です。
一方の相続人が5,000万円の土地を、もう一方が500万円の現金を相続するという話し合いは、なかなかまとまらないでしょう。
想定していたより現金が少ない
相続財産のわけ方を事前に納得していたとしても、想定していたより現金が少なくなるともめてしまいます。
事前に協議をおこない、ひとりが2,000万円の現金を、もうひとりが評価額3,000万円の土地を相続することで納得していたとします。
協議をおこなってから時間が経過し、被相続人の医療費や介護費用が発生して現金が減る場合もあるでしょう。
反対に土地の価値が高騰し、相続人2人が受け継ぐ財産の価値に開きが出る場合もあります。
事前の協議から条件が変わると、相続内容に納得できなくなってもめてしまいます。
寄与分を主張している
相続人が寄与分を主張すると、遺産分割協議がうまく進まなくなる可能性が高まります。
寄与分とは、被相続人の財産の増加や維持に貢献した方の相続の取り分を増すことができる制度です。
たとえば、収益不動産を管理して不動産収入を増加させた、被相続人の生活を全面的に支援したなどが挙げられます。
しかし、どの程度相続財産を増加、維持させたのか証明するのは難しく、一方的な主張になる場合もあります。
一方的な主張だと感じられると、話し合いがしづらくなり、相続トラブルの原因となるかもしれません。
特別受益を主張している
相続人が特別受益を主張しだすと、話し合いが難しくなります。
特別受益とは、被相続人から生前に受けた贈与といった特別な利益です。
民法の規定により、特別受益があった場合、まず相続財産全体にその生前贈与の価値を一度足し戻してから各相続人の相続分を計算し、その後、特別受益を受けた人の取り分からその価値を差し引きます。
制度の悪用を考えて、特定の相続人の相続分を減らすために意図的に特別受益を主張する場合もあります。
特別受益として認められるかはケースバイケースであり、主張されると特別受益に該当するかどうかを確認する時間が取られてしまいます。
相続した土地を兄弟でわける方法
相続した土地を兄弟でわける方法は、次のとおりです。
- 代償分割する
- 換価分割する
- 分筆する
- 共有分割する
- どちらかが相続放棄する
それでは、相続した土地を兄弟でわける方法について解説します。
代償分割する
兄弟で相続した土地を代償分割すれば、相続財産に現金が少なくても均等に分割できます。
代償分割とは、土地をひとりの相続人が相続し、その相続人がほかの相続人に代償を支払う方法です。
たとえば、1億円の土地をひとりの相続人Aが相続し、もうひとりの相続人Bが7,000万円の現金を相続したとします。
相続人Aが相続人Bに対して、自身の財産を代償として3,000万円渡します。
代償として財産を渡せば相続した金額が公平となり、兄弟間で土地を相続してももめにくくなるでしょう。
換価分割する
相続した土地を換価分割すれば、均等に相続財産をわけられるため、兄弟ともめにくくなります。
換価分割とは、相続した土地を売却し、売却資金を相続人で分配する方法です。
相続人同士で公平にわけられない場合、一般的には換価分割を用います。
誰も住んでいない不要な土地であれば、いったん相続人全員で土地を相続してから売却します。
現金化できれば相続財産を均等に分割しやすくなり、兄弟でもめる可能性が低くなるでしょう。
分筆する
相続時に土地を分筆し、それぞれの土地を各相続人が単独で相続する方法もあります。
分筆とは、登記上の1つの土地を複数の土地にわける登記です。
物理的に物を分割するため現物分割とも呼ばれる方法で、土地を複数にわけて、各相続人が単独で分割後の土地を所有します。
ただし、分割後のすべての土地の価値を等しくすることは難しく、道路の向きや高低差などで評価額に差が出ます。
評価額に差が出てしまうため、分筆はトラブルが起こりやすいことを理解したうえで実行しましょう。
共有分割する
土地を分筆せずに相続人全員で共有分割すれば、均等に相続財産を分けられます。
共有分割とは、土地を相続人で共有する方法です。
たとえば、評価額9,000万円の土地を相続人3人が相続する場合、それぞれの相続人が所有権を3分の1ずつ取得します。
共有分割は相続財産を均等に分けやすい方法ですが、トラブルが起こりやすい点には注意が必要です。
共有分割を選ぶ場合、事前に土地の処分方法や活用方法を兄弟間で決めておきましょう。
どちらかが相続放棄する
誰かが相続放棄すれば、納得したうえで相続が進みます。
相続放棄とは、相続に関する一切の権利、義務を引き継がずに放棄できる制度です。
評価額500万円の土地と借金が480万円ある場合、相続財産は20万円です。
相続財産が少額であれば、相続放棄を検討する相続人がいるかもしれません。
なお、相続放棄は、家庭裁判所に申述する必要があります。
相続放棄は納得したうえで手続きをしなければならないため、比較的トラブルが起こりにくい方法と言えます。
兄弟で相続した土地を売却する際の注意点
兄弟で相続した土地を売却する際の注意点は、次のとおりです。
- 売却して分割する場合
- 分筆して分割する場合
それでは、それぞれのケースでの注意点について解説します。
売却して分割する場合
売却して分割する場合、さまざまな取り決めをおこなっておかなければなりません。
取り決めの代表例は、次のとおりです。
最低売却価格 | ・買主から交渉を受けた際の対策 ・売却金額について相続人の意思統一が必要 ・売却決定をスムーズにおこなえる |
代表者への謝礼 | ・売却窓口となる相続人に負担がかかる ・負担がかかると不満につながる ・謝礼を支払えば不満が生じにくくなる |
手残り額 | ・土地売却時には税金や諸費用がかかる ・事前に手残り金額を把握する必要がある ・金額がわかればスムーズに売却できる |
なお、取り決めについては遺産分割協議書に明記しておきましょう。
口頭での約束はトラブルになりやすいため、避けなければなりません。
分筆して分割する場合
分筆して分割する場合、次の点に注意して進める必要があります。
測量費用 | ・分筆する際は確定測量の費用がかかる ・確定測量の費用は40万円~80万円程度 ・完了までに3か月から半年程度かかる |
接道義務 | ・道路が接していない土地は建築できない ・接道義務を満たすように分筆する必要がある |
評価額の違い | ・土地のわけ方によって評価額が変わる ・同じ評価額にわけるのは難しい |
分筆の作業自体は土地家屋調査士に依頼すれば進みますが、費用も時間もかかります。
また、土地は一定の条件を満たした道路に接していないと建物が建てられないため、すべての土地に道路が接するよう配慮して分筆しなければなりません。
分筆後の土地の評価額を同程度にするのは難しく、評価額の違いを見込んだうえで分筆する必要があります。
土地相続で兄弟間のトラブルを防ぐコツ
土地の相続で兄弟間のトラブルを防ぐコツは、次のとおりです。
- 遺言書を作成しておく
- 生前に土地を売却する
- 代償金を用意しておく
- 税理士に相談する
それでは、それぞれの方法がどのようなトラブルを防止できるのか解説します。
遺言書を作成しておく
相続の発生前に遺言書を作成すれば、兄弟で相続してももめにくくなるでしょう。
原則として遺言者の意思は最優先されるため、遺言書は法定相続よりも優先されます。
相続時に遺言書があれば、相続人は書き残された内容に従って相続をおこないます。
ただし、遺言書があったとしても遺産分割協議は可能です。
相続人に不満が残る内容の遺言書だと、遺産分割協議されるおそれがあるため、相続人に配慮した内容にすることが大切です。
生前に土地を売却する
生前に土地を売却して現金化しておけば、相続財産を均等に分配できます。
相続後でも換価分割できますが、そもそも相続人全員が換価分割に承諾しなければ実行できません。
ひとりでも換価分割に応じない相続人がいる場合、相続財産を均等に分割することが難しくなります。
生前に現金化しておけば換価分割の承諾が必要なくなり、容易に財産を分けられます。
ただし、不動産よりも現金のほうが相続税評価額は高くなるため、相続税が増える可能性がある点には注意が必要です。
代償金を用意しておく
相続時に代償分割を進める予定である場合は、事前に代償金を用意しておきましょう。
相続する土地の評価額が高く、土地以外の相続財産が少ない場合、高額な代償金を支払わなければならない可能性もあります。
数千万円以上用意しなければならない場合もあるため、事前に準備をはじめる必要があります。
被相続人が生命保険に加入している場合、その保険金を代償金として利用することも可能です。
ただし、保険金を代償金として利用する場合、贈与税が課される場合と課されない場合があるため、税理士に相談するとよいでしょう。
税理士に相談する
兄弟間でのトラブルを防止する場合、税金のプロである税理士に相談するとよいでしょう。
換価分割や代償分割などトラブル防止法はいくつかありますが、どの方法を用いればよいのか判断するのは難しいものです。
税理士は相続財産の評価額や相続人の状態などを考慮し、最適な解決法を提示できる相続のプロです。
相続発生後だと対策しにくくなるため、生前に相談するとよいでしょう。
兄弟で土地を相続する際の流れ
兄弟で土地を相続する場合は、次の手順で進めます。
- 遺言書の有無を確認する
- 法定相続人を確認する
- 相続財産を確認する
- 遺産分割協議をおこなう
- 相続登記する
各手順を正確におこなうのは難しいため、一般的には司法書士に依頼します。
司法書士に依頼する場合でも手順を確認しておき、スムーズに相続の手続きを進めましょう。
1:遺言書の有無を確認する
相続が発生した際は、まず遺言書の有無を確認します。
遺言書が保管されている主な場所は、次のとおりです。
- 自宅
- 貸金庫
- 公証人役場
作成する遺言書によって保管場所が異なるため、作成者は保管する場所を指定すべきでしょう。
なお、公証人役場以外に遺言書が残されていた場合、家庭裁判所による検認を受けなければなりません。
遺言書が正しい内容で記載されているのか、改ざんされた形跡はないかなど調査されます。
2:法定相続人を確認する
遺言書がなかった場合、法定相続人を確認します。
相続で進める場合、まず法定相続人が誰か調べなければなりません。
法定相続人が身近な方のみとは限らず、認知されていない子どもがいる可能性もあるためです。
当然ながら、認知されていない子どもであっても相続の対象となります。
法定相続人を確定する際は、司法書士に調査させたり、戸籍をたどって確認したりします。
3:相続財産を確認する
法定相続人が確定した後は、相続財産を確認します。
相続財産を確認する際は、プラスの財産とマイナスの財産を調査します。
プラスの財産 | ・土地や建物などの不動産 ・株式や小切手などの有価証券 ・現金や預貯金 など |
マイナスの財産 | ・借金 ・未払いの税金 など |
価値があるもの以外にも、債務も相続の対象となります。
プラスの財産のみを確認すると、正確に相続できなくなるため注意が必要です。
4:遺産分割協議をおこなう
相続人と相続財産の確認後、遺産分割協議をおこないます。
相続人全員が遺産分割協議し、相続の分配に納得した場合、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書に記載する必要がある項目は、次のとおりです。
- 被相続人の死亡日、氏名、住所
- 分割方法や分割割合の内容
- 相続人全員の承諾
- 分割する相続財産の内容
- 相続人全員の氏名、住所
この書類には、相続人全員が実印で押印し、各自の印鑑証明書を添付する必要があります。
5:相続登記する
遺産分割協議書の作成が完了したら、法務局で相続登記を申請します。
相続登記の申請には、次の書類が必要となります。
書類の名称 | 取得先 |
登記申請書 | 法務局 |
遺産分割協議書 | 相続人で作成 |
戸籍の謄本 | 本籍地の自治体 |
住民票 | 住所地の自治体 |
印鑑証明書 | 住所地の自治体 |
固定資産税納税通知書 | 不動産の所有者 |
相続関係説明図 | 相続人で作成 |
用意する書類は多く、相続人が作成しなければならないものもあります。
書類の準備に不安がある場合は、相続手続きを司法書士に依頼することをおすすめします。
兄弟で相続した土地売却に関するよくある質問
兄弟で相続した土地売却に関するよくある質問は、次のとおりです。
- 共有名義の土地は売却できる?
- 相続は現金と土地のどちらがおすすめ?
- 相続税はどのくらいかかる?
それでは、よくある質問とその回答を紹介します。
共有名義の土地は売却できる?
共有名義の土地は、共有者全員から同意を得られれば売却できます。
共有物を売却する際は、民法に規定された条文に影響を受けます。
(共有物の変更)第二百五十一条各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
引用:e-Gov 民法
売却は共有物の変更行為に該当するため、共有者がひとりでも反対した場合は売れません。
共有者全員から同意を得るのは難しいため、売却しようとしても成立しない場合があります。
相続は現金と土地のどちらがおすすめ?
現金と土地のどちらがおすすめなのかは、相続人や相続財産によって異なります。
土地で相続すれば相続税の節税につながりますが、分割しにくく相続人がもめる原因となります。
一方、現金は分割しやすいものの、相続税額が高くなるリスクがあるため注意が必要です。
現金にも土地にもそれぞれメリットとデメリットがあるため、税理士に相談してどちらが適切か確認してもらいましょう。
相続税はどのくらいかかる?
相続税は、基礎控除を超える相続財産を相続した際に課税されるため、まずは控除額を計算する必要があります。
次の計算式で計算した金額以内の相続財産であれば、相続税は課税されません。
基礎控除3,000万円 + 法定相続人の数 × 600万円 |
たとえば、法定相続人が3人の場合、相続財産評価額4,800万円を超える部分に課税されます。
基礎控除を超える場合は、相続税がどの程度課税されるのか税理士に確認しましょう。
まとめ
兄弟で相続した土地を売却する際には、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。
たとえ親しい間柄であっても、それぞれの家庭の事情があるため、一度問題が起こるとなかなか解決できません。
問題の発生を抑えるためには、トラブルを防止するコツや土地の分割方法を理解することが大切です。
兄弟間の遺恨は残りやすいため、事前に対策を講じ、相続人全員が納得できる土地の売却を目指しましょう。