「今のマンションには住宅ローンが残っているけど、引っ越すことはできるのかな?」このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
住宅ローン返済中のマンションから引っ越すことは可能ですが、さまざまな制約が伴います。場合によっては、引っ越しができないケースもあり得ます。
とはいえ、何らかの事情で現在のマンションから引っ越したいと考えることもあるでしょう。そのため、住宅ローン返済中のマンションに住んでいるときの引っ越し方法を知っておくことは有意義です。
こちらの記事では、住宅ローンがあるマンションから引っ越す方法や注意点、具体的な流れを解説します。現在のマンションからの引っ越しを検討している方に役立つ内容となっているので、ぜひ参考にしてみてください。
原則として住宅ローンがあると引っ越しはできない
原則として、住宅ローンがある家から引っ越しはできません。住宅ローンを組むと、対象となる不動産に抵当権が設定され、売却に制約が生まれるためです。
抵当権とは住宅ローン締結時に金融機関が設定するもので、不動産を担保として差し押さえる権利です。ローン契約者がローンを支払えなくなったとき、最終的に競売にかけて金融機関は貸し付けたお金を回収します。
抵当権が付いている不動産を売却できないわけではないものの、一般的に買い手は抵当権付きの不動産には興味を示しません。いつ失うかわからない不動産を購入するのはリスクが大きいため、売りに出しても売れないでしょう。
つまり、住宅ローンがある家から引っ越すときには、住宅ローンを完済して抵当権を抹消する必要がある点を押さえておきましょう。
原則として住宅ローンがあると賃貸に出すこともできない
「売れないなら賃貸に出せばよい」と考える方もいるかもしれませんが、原則としてローンが残っている家は賃貸に出すこともできません。
住宅ローンを借りる際には、契約内容に「住宅ローンの契約者本人または家族が住む」「資金用途はマイホームの購入に限る」などの要件が設けられているケースが一般的であるためです。
住宅ローンは、契約者本人または家族が住むことを前提として締結するため、そもそも賃貸に出すことを想定していません。住宅ローンは資金用途に制約を設ける代わりに低い金利で貸し出していることを考えると、当然といえるでしょう。
もし住宅ローンがある家を賃貸に出して契約者が引っ越しをすると、契約違反を指摘されます。契約内容に反するという理由から、住宅ローン返済中の家を賃貸に出すことはできないのです。
住宅ローン返済中でも引っ越せるケース
住宅ローン返済中のマンションでも、例外的に引っ越せるケースがあります。引っ越しを余儀なくされる状況に迫られている場合、以下に該当するか確認しましょう。
具体的な事例を交えながら解説するので、参考にしてみてください。
同居家族の誰かが残って生活する
住宅ローン返済中のマンションでも、家族全員ではなく家族の誰かが残る場合は、一部の人だけ引っ越せます。例えば、妻子を残して一時的に単身赴任する場合や、両親が要介護状態になり実家に移って介護をする必要が生じたケースが考えられるでしょう。
契約者または契約者の家族が住み続ける場合は、引っ越しても問題ありません。同居家族がマンションに居住していれば、住宅ローンの契約条件を満たし、住宅ローン契約上の義務を果たせます。
ただし、同居家族が残って生活を継続する場合でも、事前に金融機関に相談しておくとよいでしょう。了承を得られないケースは考えづらいですが、実際に事情を話して理解を得ておけば、後々になってトラブルになる事態を防げます。
やむを得ない理由がある場合は金融機関の許諾を得る
やむを得ず家族全員が引っ越す必要性に迫られている場合でも、金融機関の許諾を得られれば引っ越せる可能性があります。
転勤や親の介護などの事情があれば、金融機関から許諾を得られるケースがあり得ます。また、金融機関から引っ越しに関して許諾を得られると、住宅ローンが残っていてもマンションを賃貸に出すことも可能です。
例外的な取り扱いを認めないと、住宅ローン契約者は住まない家のために住宅ローンの返済をすることになるため酷です。そこで、生活状況の変化などやむを得ない事情がある場合は、金融機関は例外的に引っ越しを認めることがあります。※1
引っ越したい場合に住宅ローン返済中のマンションはどうすればよい?
住宅ローンがあるマンションから引っ越すにあたって、検討すべき選択肢はいくつかあります。
売却をはじめさまざまな選択肢があるため、今後の生活を鑑みたうえで最適な方法を選択しましょう。以下で、具体的な選択肢と方法について解説します。
売却する
不動産会社に仲介を依頼し、マンションを売却する方法があります。不動産会社にマンションの見積もり査定を依頼し、売却価格の見込みを把握しましょう。あわせて、仲介手数料をはじめとした諸経費の確認も欠かせません。
売却価格がローンの残債よりも高い「アンダーローン」の状態だと、ローンを完済できるため抵当権の問題も生じません。一方で、売却価格が住宅ローンの残債よりも少ない「オーバーローン」のときは、不足分を手元資金でカバーする必要があります。
もし不足分を手元資金でカバーできないと、抵当権を抹消できず売却できない可能性が高いでしょう。そのため、売却を検討する際には、現在の住宅ローンの残債と売却見込み額を把握することが欠かせません。
なお、マンションの取引は一般的に高額になるため、売却できるまで時間がかかる可能性があります。スムーズに販売活動が進まないことも想定して、計画的に手続きを進めましょう。
不動産会社に買い取りを依頼する
自社で不動産の買い取りを行っている不動産会社に対して、現在のマンションを売却するケースもあります。この場合も、売却額でローンの残債を完済できるか確認することが欠かせません。
不動産会社に買い取りを依頼するメリットは、早くマンションを売却できることです。買い手が見つかるまで待つ必要がないため、売却をスムーズに済ませたい場合は不動産会社への買い取り依頼を検討するとよいでしょう。
ただし、買い取りを行っている不動産会社は将来的な再販売を前提としているため、市場価格よりも安い金額で売却することになります。
他にも、住宅ローンの繰り上げ返済手数料や抵当権抹消など売却に関連する費用も発生するため、手元に残るお金を綿密にシミュレーションすることが欠かせません。
住み替えローンを利用する
住み替えローンとは、現在のマンション売却後も残る住宅ローンと新しい住宅ローンを合算するローンです。売却を検討しているものの、オーバーローンで手元資金も不十分なときに検討すべき選択肢といえます。
例えば、オーバーローン分が500万円で新しい住宅ローンが2,000万円の場合、合わせて2,500万円借りることが住み替えローンです。住み替えローンを利用すれば、手元資金を残しつつ引っ越しを行えます。
ただし、住み替えローンは借入額が多くなる分、審査が厳しくなり毎月の返済負担も重くなります。
実際に住み替えローンを利用する際には、返済シミュレーションを綿密に考えることが重要です。
ダブルローンを利用する
ダブルローンとは、現在返済している住宅ローンとは別の新しい住宅ローンを締結する方法です。2つの住宅ローンを抱える点が特徴で、一部の金融機関で取り扱っています。
「売ってから引っ越す」のではなく「買ってから古いマンションを売却する」ため、スムーズに引っ越せるメリットがあります。しかし、古いマンションが売れないと返済負担が重くなるため、リスクが大きい方法といえるでしょう。
また、一般的にダブルローンは返済負担が重くなるため、審査基準が厳しい傾向にあります。取り扱っている金融機関を見つけた場合でも、安易に利用せず事前に相談することが欠かせません。
任意売却を行う
任意売却とは住宅ローン契約を締結した金融機関の同意を得て、住宅ローンの残債がある状態でも抵当権を抹消し、不動産を売却することです。
任意売却後に残債がある場合は引き続き住宅ローンの返済が続きますが、金融機関が返済プランを考えてくれるケースが一般的です。オーバーローンの状態で、かつ現在の住宅ローンの返済が難しい場合に任意売却を検討するとよいでしょう。
やむを得ない事情がある場合は、金融機関から同意を得られる可能性が高くなります。ただし、任意売却を行う場合は売却額が市場価格よりも安くなりやすい点に注意が必要です。
さらに、任意売却を行うと金融事故として信用情報に傷がついてしまうリスクがあります。信用情報に傷がつくと、新しいローンの契約やクレジットカードの利用に制限が加えられることがあるため、注意しましょう。
一時的な引っ越しの場合は賃貸に出す
引っ越しがあくまでも一時的なもので、戻ってくることが決まっている場合は賃貸に出すことも選択肢となります。金融機関の許諾を得たうえで、不動産会社を通じて入居者を募集するのが一般的な流れです。
賃貸に出せば、所有権を失うことなく家賃収入を得られるメリットがあります。特に、保有しているマンションが好立地であれば、安定した入居が見込めるでしょう。
ただし、自分たちが戻ってくることが決まっている場合、定期借家契約で賃貸借契約を行う必要があります。定期借家契約とは、一定期間が終了すると更新せずに契約が満了となる賃貸借契約です。
定期借家契約は普通借家契約と比較して、入居者が見つかりにくいデメリットがあります。あわせて、定期的な点検や修繕を行い物件の価値を維持することも大切です。
住宅ローンがあるマンションから引っ越すときの注意点
住宅ローンがあるマンションから引っ越す際には、いくつか注意すべき点があります。
引っ越しを検討している方が必ず確認すべきポイントを厳選したので、参考にしてみてください。
売却する場合は市場価格と住宅ローンの残債を確認する
マンションを売却するという選択肢を採用する場合は、市場価格と住宅ローンの残債を確認しましょう。売却によって住宅ローンを完済できるのか、あるいはオーバーローンで手出しの資金が必要になるのか把握するためです。
アンダーローンの場合はスムーズに売却が進むと見込めますが、オーバーローンの場合は考えるべきことがあります。「手元資金はあるか」「引っ越し資金を確保できるか」「住み替えローンのほうがよいか」など、さまざまな点を検討しましょう。
アンダーローンの場合、売却価格と住宅ローンの残債の差額は引っ越し資金に充てられます。その結果、お金をかけてよりよい居住環境を実現できる可能性が高まるでしょう。
このように、不動産市場の動向と住宅ローンの残債を踏まえて慎重に売却の是非を判断すれば、快適な居住環境への引っ越しを実現できます。
売却する場合・賃貸に出す場合は住宅ローン控除が適用されなくなる
住宅ローンがあるマンションを売却したり賃貸に出したりすると、住宅ローン控除が適用されなくなる可能性があります。住宅ローン控除が適用されなくなると、数十万円以上の税負担が増える点に注意が必要です。※2
住宅ローン控除を受ける条件の一つに「この特別控除を受ける年分の12月31日まで引き続き居住の用に供していること。」があります。そのため、家族全員が引っ越しをすると住宅ローン控除は受けられません。
ただし、単身赴任で家族全員が引っ越さない場合は、住宅ローン控除を引き続き受けられます。また、家族全員で一時的に引っ越して、その後に戻ってきた場合は住宅ローン控除の適用を再度受けることも可能です。※3
新しく購入した住居で住宅ローン控除の適用要件を満たす場合は、新しく住宅ローン控除が適用されます。
住宅ローンは、会社員や公務員にとって経済的な効果が大きい節税制度です。住宅ローン控除が受けられなくなると経済的な打撃が発生するため、必ず確認すべきでしょう。
必ず金融機関に相談する
住宅ローンがあるマンションから引っ越す際には、必ず金融機関に相談しましょう。やむを得ない事情があっても、事前に債権者である金融機関に相談することで後々のトラブルを防げます。
「なぜ引っ越す必要があるのか」「現在の住居に戻ってくる予定はあるのか」など、引っ越しに関する情報を金融機関へ提供しましょう。
金融機関との相談を経ず勝手に引っ越してしまうと、契約違反を指摘される恐れがあります。その結果、住宅ローン残債の一括返済を求められる可能性があるため、注意しましょう。
不動産会社に買い取ってもらう場合や任意売却の場合は市場価格よりも安くなる
住宅ローンがあるマンションを不動産会社に買い取ってもらう場合や任意売却する場合、市場価格よりも安くなる点に注意が必要です。
買い取ってもらう場合と任意売却の場合では、売り出してから買い手が見つかるのを待つ必要がありません。買い手が限定的になることで、競争原理が働かなくなり市場価格よりも安くなってしまいます。
さらに、不動産会社が買い取る場合や任意売却の場合では、物件の転売リスクを不動産会社が負うことになります。転売リスクとは、転売に時間がかかったり、期待通りの価格で売却できなかったりするリスクを指します。
さまざまなリスクを織り込んで不動産会社は買い取り価格を設定するため、市場価格よりも低くなりやすいのです。
このように、早期に売却できるメリットと市場価格を下回る売却となるデメリットを天秤にかけて、ベストな選択肢を探ることが大切です。
引っ越しに伴う手間や労力が発生する
引っ越しに伴う手間や労力が発生するデメリットも見逃せません。例えば、現在のマンションを売却する場合は、売却に伴う手続きとして以下のような手間が発生します。
- 仲介業者の選定
- 売却価格の設定
- 金融機関との調整
- 物件説明や内覧対応
- 売買契約の立ち合い
他にも、引っ越し先での物件選定や入居手続き、ライフライン契約などの手間も発生します。引っ越し業者の手配や荷造り、住民票異動をはじめとした各種届出なども行わなければなりません。
引っ越しの準備に時間と労力がかかり、時間的・体力的な負担が大きくなるデメリットがある点は押さえておきましょう。
住宅ローンがある家から引っ越すときの流れ
住宅ローンがある家から引っ越すときの具体的な流れを解説します。時間と手間がかかることを念頭に置き、どのようなスケジュールで動くべきかイメージしてみてください。
現状の確認 | 現在の住宅ローンの返済状況を確認するマンションの売却見込み額を査定してもらう引っ越しに伴う費用や手間を見積もる |
金融機関への相談 | 引っ越しの意向を金融機関に伝える住宅ローンの残債や返済方法について相談する売却や賃貸の計画を説明して金融機関の許諾を得る引っ越し後の住宅ローンの取り扱いを確認する |
売却・賃貸の準備 | 売却する場合は、不動産業者の選定や売却価格の設定を行う賃貸に出す場合は、賃料の設定や入居者募集の方法を決める物件を管理する管理会社の選定も行う |
引っ越し先の選定 | 引っ越し先の候補を探す予算や希望条件に合う物件を選定する新たな住宅ローンの必要性を検討する入居日を決めて引っ越し先の契約を進める |
売却・賃貸の手続き | 売却する場合は買主との売買契約を結ぶ賃貸に出す場合は、入居者との賃貸借契約を結ぶ住宅ローンの残債の返済や、抵当権の抹消手続きを行う金融機関への報告をはじめとした各種手続きを進める |
引っ越しの準備・実行 | 引っ越し業者の手配や、荷造りの準備を進めるライフラインの解約や住所変更の手続きを行う |
住宅ローンがあるマンションから引っ越す際には、さまざまな手間が発生します。金融機関や不動産業者、引っ越し業者など多くの関係者と調整が必要になります。
現状を認識したうえで、着実に売却と新しい居所の確保を進めましょう。
まとめ:住宅ローンがあるけど引っ越したい人は必ず金融機関に相談しよう
やむを得ない事情があれば、住宅ローンがあるマンションから引っ越すことは可能です。しかし、住宅ローンの残債や手元資金などの状況によっては、引っ越しができないケースもあり得ます。
原則として、やむを得ない事情がない限りは、住宅ローンのあるマンションから引っ越せません。賃貸に出す際にも、さまざまな制約がある点には注意しましょう。
現在のマンションから引っ越したい場合は、住宅ローンを契約している金融機関との相談が欠かせません。トラブルを未然に防ぐのはもちろん、引っ越しの必要性や将来の計画などを伝えて、どのように対処するのがベストか考えましょう。
※1:住宅ローンで取得した物件を賃貸した場合の取扱いについて
※2:No.1211-1 住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)
※3:No.1234 転勤と住宅借入金等特別控除等